日本銀行が20日に踏み切った想定外の金融緩和政策の修正は市場との対話に課題を残した。市場関係者の間では、日銀の市場とのコミュニケーションの欠如を指摘する声が相次いでいる。一方で、一段の政策修正もあり得るとして、イールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)の廃止も指摘されている。
日銀が金融政策決定会合で決めた長期金利の許容変動幅の拡大は、世界的な物価上昇や円安が急速に進行する中で、以前から政策修正の手段として市場が想定していたメニューの一つ。しかし、会見や国会答弁などで可能性を問われた黒田東彦総裁ら日銀幹部は事実上の利上げであり、金融緩和効果を阻害するとして否定的な見解を繰り返していた。
日銀が金融緩和を修正、長期金利の許容上限を0.5%に引き上げ
黒田総裁は会合後の記者会見で、変動幅の拡大決定について「市場機能を改善し、緩和効果をより円滑に波及させる」ことを理由に挙げ、「利上げではない」と繰り返した。SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミストは、前言撤回とも言える発言に、日銀は「コミュニケーションに関する信頼を失った」と苦言を呈した。
変動幅拡大は市場機能改善が目的、「利上げではない」-日銀総裁
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林真一郎主席研究員も、「黒田総裁の発言をもう誰も信じない」とし、「これは日銀にとって大きな損失だ」と指摘する。
決定を唐突と受け止めた直後の市場では長期金利と円相場が急上昇し、株式相場は大きく下落した。翌日も債券市場で新発2年国債利回りが約7年ぶりにプラス圏に浮上。事実上の利上げと受け止めた市場では、さらなる政策修正に対する臆測が広がっている。
マイナス金利解除も
ゴールドマン・サックス証券の馬場直彦エコノミストは、「日銀が市場機能改善の必要性を従来よりも大々的にフィーチャーしてきた点に鑑みれば、マイナス金利政策の解除を実施する可能性は以前より相応に高まった」と分析。市場機能改善を目的とした変動幅の拡大は今回が最後とみているが、次の政策変更は「長短金利政策目標の変更、もしくはYCCそのものの解除という大きなものとなる」と予測している。
長期金利をターゲットにするYCCは事前に市場に織り込ませようとすると、長期金利を必要以上に不安定化させ、金融市場調節を困難にする可能性が大きい。元日銀理事でみずほリサーチ&テクノロジーズの門間一夫エグゼクティブエコノミストは、「YCCを変更する決定はサプライズにならざるを得ない。次のステップではYCCの廃止を検討する可能性もある」とみている。
日銀がこのタイミングで政策修正に踏み切った背景には、来年4月8日に黒田総裁が任期満了を迎えることから、新体制下での金融政策運営の自由度を確保するためとの見方が多い。
SMBC日興の丸山氏は、「事実上の脱YCCを開始したことで、2023年における日本銀行の金融政策運営は自由度が広がる」と指摘。新体制における金融政策の点検・検証や、政府との共同声明の見直しを急ぐ必要は薄れたとしている。
IMFアジア太平洋局局長補で日本担当ミッション・チーフのラニル・サルガド氏は声明で、「日銀のYCC修正は、賢明な措置だ」と評価した。一方で、「金融政策の枠組みを調整する条件に関する意思疎通が改善されれば、市場の観測を抑え、日銀のインフレ目標達成に向けたコミットメントの信頼性を強化するのに役立つだろう」と述べ、情報発信が最適ではないことを示唆した。
20日の会見で市場とのコミュニケーションについて問われた黒田総裁は、「金融資本市場や経済・物価の動向が変われば、それに応じたことをやるのは当然」としつつ、「金利の引き上げでないということは十分市場関係者にもお伝えしたい」と語った。
--取材協力:.
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著者:伊藤純夫
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