人間関係のストレス減、対話で「NVC」非暴力コミュニケーションが注目のワケ NVCが互いに共感できる協力的な関係に変える
そして、ある現場で活動する当事者から「何が正しくて、何が間違いかではなく、互いに何を大事にしているのかを話す場をつくりたい」という言葉を耳にしたことが、今井氏を方向転換させるきっかけとなった。
「『人の心が通い合う対話とは何か』を勉強するうちに出合ったのがNVCの本でした。雷に打たれたような衝撃を受けたのです。これまでの自分の葛藤に対する解決策がNVCに集約されている。もっとNVCを学んで考え方を身に付けたい、多くの人と共有したいと思うようになりました。そこで16年から、のめり込むように国内外のNVCのワークショップに通い始めました」
そこから今井氏は勉強を続け、21年に米国に本部を置くCNVC(Center for Nonviolent Communication)の認定を受け、CNVC認定トレーナーとなった。ちなみに認定課程を修了するには3~5年を要するとされ、認定トレーナーとなることで「NVC」という語の使用許可が付与されるが、あくまで個人でNVCの精神性をベースに探求を続けていくという意味で、世間的な「資格」とは異なるという。
言い方より「どんな意図を持って」相手と関わるかが大事
では、このNVCはコミュニケーションをどう変えていくのだろうか。その入り口として、次の問いについて考えてみてほしい。
「あなたのとった何らかの行為が、誰かの人生をよりすばらしいものにするうえで役立った、ということはありませんか?」
そう言われたら皆さんはどう答えるだろうか。今井氏はこう説明する。
「NVCの創始者マーシャルは、世界のあらゆる土地でこの問いを投げかけました。すると、誰もがとてもうれしそうな表情を浮かべたというのです。『人は、誰かの人生をすばらしいものにすることへの貢献に喜びを感じる』のは、過酷な対立の現場に立ち会い仕事をし続けたマーシャルが身をもって実感した、人間が持っている本質です。そうした人間の本質を前提に、NVCは支配・対立・緊張・依存といった社会や組織の構造的な影響から脱し、人が持つ、人生を豊かにするために、互いを生かし合う関係を築く力を思い起こさせてくれるものなのです」
通常、私たちはコミュニケーションをする際、どのような言い方をすればいいかを考える。だが、NVCでは、言い方よりも「意図」を大事にする。どんな意図を持って相手と関わっていくのかが、スタート地点となるのだ。
例えば、価値観の異なる人と関係性を築くとき、誰もが難しく考えがちだが、そう思えば思うほど自分の心理的安全性が脅かされ、武装的なコミュニケーションに陥る傾向がある。しかしNVCでは、自分は何を求めているのか。話を聞いてほしいのか、安心して会話をしたいのか、あるいは価値ある人間だと思われたいのかなど、まずは自分が大切にしたいこと(ニーズ)に立ち返る。
こうして自分にゆとりをつくったうえで、相手とどういう関係性をつくりたいのか。気持ちよくつながっていたいとか、安心してものを言える関係でいたいとか、うまく自分を伝えつつ相手のことも理解しながら関係性をつくっていく。この「どういう関係性をつくりたいのか」という意図を持つことが、NVCの基本となる。うまくいかなかったら、意図に立ち返りながらやり直すことが大事だという。
「NVCのカギとなる意図は3つあります。1つ目は、お互いの人間らしさが見えるつながりの質をつくることを目指す。2つ目は、お互いのニーズが満たされることを同じくらい大切にする。3つ目は行動を起こすときは自然な分かち合いからできることを目指すです」