学外の視聴者も増加、とある私大職員が「奨学金YouTuber」を兼務する訳 札幌大・水戸康徳が語る「学生が陥る落とし穴」
「答え合わせをしようにも、JASSOの電話はつながりにくく、私たち担当者は『これでいいのかな?』といつも不安。そもそも業務はほぼ紙ベースで、奨学金の利用者が増えているので昔より業務量そのものも多くなっている。でも、結局それをまとめるJASSOも大変で、誰のせいでもないんですよね」
そのため水戸氏も解決策は持っていないが、「担当者はどうか自分の心を守ってほしい」と願っている。
「担当者は制度を変えることはできません。でも、今年課題が残ったら、次年度はそれを生かして改善することはできる。そういう転換は気持ちを前向きにしますし、結果的に学生を守ることにもつながります。昔に比べて制度も業務量もまったく変わっており、周囲も『こういう協力ができるけど、必要?』など、可能な範囲でいいので気にかけてもらえると本当に助かります」
前述のとおり、水戸氏はデータ分析を学生支援に生かしているが、今後はさらにデータから最適なアクションにつなげる「仕組み化」を強化して業務効率を上げ、学生に必要な情報をしっかり届けていきたいと話す。
「学生から動画配信への感謝の声をいただきうれしく思っていますが、動画が好調なだけでは意味がありません。重要なのは、給付型を利用する学生なら無事に卒業すること、貸与型を利用する学生なら返還金を延滞しないこと。とくに延滞率の改善は大きな課題ですが、大学の体面以前に所属学生が将来苦しむ事態は絶対に避けたい。だから学生に自分を守る知識や情報を渡すためにも説明会の参加率の向上は大事で、そこを根性ではなく『仕組み化』で何とかしていきたいと考えています」
また現在、「奨学金担当者だらけの会」という、奨学金担当者がZoom上で気軽に集える会を持っているが、校種を問わずもっと広く担当者とつながりたいという。
「学校横断で奨学金のノウハウを共有するなど、新しい試みができたらもっとみんなハッピーになれるのかなと思っています」
奨学金を扱う現場の最前線では、水戸氏をはじめとする奨学金担当者たちが、学生の未来を守ろうと必死で奮闘している。最近では現場の業務をDXで改善しようと乗り出すスタートアップ企業もあり(関連記事はこちら)、うまくいけば少しずつ困難は解消されていくかもしれない。
しかし、奨学金は本来、学生が未来を切り開く重要な手段であるはずだ。現場職員や学生の自助・共助に頼らなければ回らないような複雑な仕組みのままでよいはずはない。JASSOの奨学金制度への批判はすでに数多くあるが、情報提供や手続きなどの面も含め、学生がもっと利用しやすいよう見直されるべきだろう。
(文:編集部 佐藤ちひろ、写真:水戸康徳氏提供)
東洋経済education × ICT編集部
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