学外の視聴者も増加、とある私大職員が「奨学金YouTuber」を兼務する訳 札幌大・水戸康徳が語る「学生が陥る落とし穴」
在学中のリスクも多い。例えば、アルバイトで稼ぎすぎると給付額が下がる。奨学金の種類を問わず、成績基準をクリアできなかったり、毎年冬に行う継続願いの手続きを忘れたりすると、支給が止まる。給付型に至っては3カ月に1度、現況報告の義務がある。そのため水戸氏は「忘れないよう、スマホのリマインダー機能を活用しよう」といったハックも併せて情報提供を行う。

「わからないことはまず学校の奨学金担当者に聞いてほしい」と水戸氏は言うが、学校から提供される情報の質や量が十分でない場合は、どうしたらよいのか。
「私の動画をご覧いただくのもよいですが、ウェブサイトではJASSOの『奨学金相談サイト』や久米忠史さんが運営する『奨学金なるほど相談所』がわかりやすいです。奨学金検索サイトでは『crono』と『ガクシー』がお薦め。前者はコラムが充実していて、月末にはZoomで奨学金の勉強会なども開催しています。後者は検索や情報発信が若者向けに工夫されていて、お得な奨学金情報が豊富に入ってきます」
情報収集のニーズは大きく、水戸氏のYouTubeチャンネルやTwitter、マシュマロにも、所属学生に限らず、学外の学生や高校生、その家族などから質問が届く。今のところ対応可能な数なので、すべて回答しているという。
「わからなくて本当に困っていても『こんな質問をしていいのだろうか』と不安に思う学生は多い。だから学生の心理的安全性を確保するためにも、誰であろうと、どんな基礎的なことであろうと答えています」
ちなみに趣味の範囲で運営しているサブチャンネルのライブ配信「奨学金LIVE」では、その場で質問に対応しているそうだ。
知られざる「奨学金担当者」たちの苦悩とは?
一方、奨学金制度の複雑さに頭を抱えているのは学生だけではない。水戸氏を含め、奨学金担当者たちも皆、大変な思いをしているという。「毎年のように小型の変更や大型のアップデートがあります。しかも今どきはゲームでさえ攻略動画があるのに、奨学金にはいっさいガイドがありません」と、水戸氏は漏らす。
例えば、各種変更における注意すべきポイントについてはJASSOから渡されるとは限らない。アナウンスがない場合、奨学金担当者が資料を読み込んで注意点に気づくしかない。
「子どもの学校からのお手紙で、何枚か合体しないと読み解けないものってありますよね。あんな感じで奨学金制度も、ある情報が追加された場合、すでに提供されていたAの情報やBの情報との関係性や注意点は各自で読み取ってくださいというスタイルなんです」
奨学金担当者は制度を理解しようと猛勉強するまじめな人が多いというが、担当者の善意と努力に依存する今の状態では、もし見落としがあっても強く責めることはできないのではないか。
しかし、見落としは「学生に必要な情報が届かない」ことにつながる。「中には『私のせいで何人かの学生に迷惑をかけてしまった』と心を病んでしまうケースもあると聞きます」と、水戸氏。水戸氏の元にも、外部の奨学金担当者から「こんな制度に誰がしたのか」「ついていけるわけがない」「実質ワンオペで手が回らない」といった悲痛な声が届くことがある。