記述式設問の正答率から見えてくる「説明力」の弱さ
今回の調査で日本の子どもたちの学力の弱点がいっそう明確になってきた。それは国語と算数・数学、さらには理科にも共通する弱点だ。
1つ目の弱点は、「説明力」である。説明というとただの表現の問題だと思われがちだが、それだけではなく思考力の弱さとも深く関わる。そして、何を問われているのか、求められているのかを理解する「読解力」の弱さでもある。記述式の設問の中でも、とくに正答率が低かった設問を中心に具体的に少し見ていこう。
正答率が低かった設問の1つが、小学校算数の2の(4)の設問である。ここでは果汁の変化に伴う飲み物の量の変化を問うている。まず、次の「ゆうかさん」の気づきが示される。
小学校算数 2の(4)
そのうえで、以下の設問が示される。
「何mlか」の正答は「600ml」で、その求め方の正答例は「果汁の量は、180÷30=6で、6倍になっています。果汁の量が6倍になると飲み物の量も6倍になるので、飲み物の量は、100×6=600で、600mlになります」だ。それほど難易度は高くないはずだが、正答率は48.0%である。「600ml」と答えを出すことはできても、「どのように求めたのかがわかるように」「求め方を式や言葉」を使って説明することができていない。
説明には、3つの要素が必要となる。まず「果汁の量は、180÷30=6で、6倍になっています」という倍率についての説明。その上で「果汁の量が6倍になると飲み物の量も6倍になる」という果汁と飲み物の量が比例の関係にあることの説明が続く。最後に「飲み物の量は、100×6=600で、600mlになります」という計算式と結論が必要となる。
600mlと答えられていても、1つめの倍率の説明が欠落していたり、2つ目の比例の説明が欠落していたりするケースが多い。合わせて20.0%近くの子どもがこれらの理由で正答にならなかった。
これらは、算数・数学の授業で計算の意味を言葉で説明させる指導が、十分に行われていないことが原因と考えられる。それでも以前に比べ、算数・数学で言葉による説明を取り入れる授業が増えてきている。しかし、説明をさせても、その説明にはどういう要素が必要なのか、逆にその説明のどこに不十分さがあるかを子どもたちに意識させる授業はまだ少ない。それゆえ子どもたちは部分的に説明できたとしても、十分な説明には到達できない。
小学校理科の3の(4)の設問では、「かんの色による水の温度の変化」について問うている。
小学校理科3の(4)
はなこさんは、上記の【結果】から、「はね返した日光を水の入ったかんにあてると、黒色のかんの水の温度が最も高くなる」とまとめている。そのうえで次の設問が続く。
正答例は「黒色のかんの水の温度は、40分後には32℃で、ほかの色のかんの水の温度よりも高いから」である。時間の経過とともに黒いかんの水の温度がほかの色のかんの温度より上がっていることに着目できればよいので、難易度はそう高くないように思える。しかし、正答率は35.1%と記述式問題の中でも最も正答率が低かった。とくに欠落していたのが「40分後には32℃で」に当たる数値の部分で、この欠落で正答にならなかった子どもは19.3%にも及んだ。
これは、一つには実験結果を分析し、説明させる学習過程に甘さがあることを示している。とくに理科の実験を説明する際に、数値がない述べ方では説明になりえていないという指導が、普段の授業で十分にされていないこととかかわる。
説明の際に必要な要素の不足という点では、上記の算数の設問とこの理科の設問とで共通する弱さが見えてくる。
自らの考えを持てない「批判的思考力」の弱さ
もう1つの弱点は「批判的思考力」である。
小学校国語で47.7%と2番目に正答率の低かった設問がこれと関わる。1の四の設問である。
地域のためにできることについて話し合う様子を示している。話し合いでは「ごみ拾い」「花植え」「ペンキぬり」の3つのアイデアが出され、それぞれによい点と問題点が指摘され、その過程でできたメモも示されている。
小学校国語1の四
設問は「ごみ拾い」か「花植え」のいずれかを選び、問題点についての解決方法を自分で考えて書くことを求めている。それぞれの問題点として「続けることが難しい」「世話を続けることが難しい」は、すでに話し合いの中に示されている。だから、その解決方法を自ら考えて書けばよい。しかし、その解決方法を書けていない子どもが36.1%もいた。
これは、普段の授業でさまざまな対象・事象について問題点や不十分な点を発見したり指摘したりしながら、その改善の方法を多面的に見つけ出すという学習が弱いことと関連している。対象・事象を批判的に捉える学習である。
現在の学習指導要領では、算数・数学や国語の中に「批判的」に考察したり読解したりすることが教科の内容として明記された。画期的な変化である。もともとOECD(経済開発協力機構)のPISA(国際学習到達度調査)でも批判的思考力は重視されていた。しかし、小・中学校の授業ではまだまだ批判的に考察したり読解したりする授業が圧倒的に少ない。これからは批判的な考察・読解の授業を各教科で積極的に取り入れていく必要がある。
「課題解決型授業」「対話型授業」が新しい学力を育てるカギ
では、これらの課題に具体的にどのようにアプローチしていけばよいのか。そのカギが「課題解決型授業」「対話型の授業」にある。
文科省と国立教育政策研究所が今回の調査についてまとめた「全国学力・学習状況調査報告書」には、質問紙の結果と正答率のクロス分析が載っている。それを見ると課題解決型、対話型の授業を受けている子どものほうが全体として正答率が高い。
学校質問紙「授業では、課題の解決に向けて、自分で考え、自分から取り組むことができていると思いますか」に「そう思う」「どちらかとそう思う」と答えている学校の子どもたちの平均正答率は、「どちらかといえば、そう思わない」と答えている学校の子どもたちの平均正答率より明らかに高い。小・中学校ともに同様の傾向がある。
学校質問紙「学級やグループでの話合いなどの活動で、自分の考えを深めたり、広げたりすることができている」についても、同様の結果である。これらは、現行の学習指導要領で重視されている「主体的・対話的で深い学び」の授業のあり方と重なる。
なぜ「対話的な学び」で「説明力」「批判的思考力」が身に付くのか
秋田県では、グループの対話を生かした授業を「探究型授業」と呼び、多くの小・中学校で実践している。探究型授業では、次のような形で授業を展開することが多い。
課題に対して、まず子どもたち一人ひとりが思考し、それを基にグループや学級の友達と話し合いや討論を行う。対話型の授業では、講義型の授業に比べて、自分の意見や考えを説明する機会が圧倒的に多い。そして異質な意見の相互発見、討論による多面的意見が生まれてくる。
思考や判断は、私たちが頭の中で考える「内言」という言語によって成立している。授業で子どもたちは内言によりさまざまに思考する。しかし、ただ内言で考えているだけでは思考はあいまいなままである。それを説明という形で「外言」化する中で思考がクリアになる。また、外言で話し合いや討論を行う中で、子どもは新しい見方や考え方を獲得していく。
対話型・探究型授業では質の高い思考力が育っていく。「説明力」「批判的思考力」さらには「多面的な考察力」「メタ認知力」を育てることが可能となるのはそのためである。これからの授業では、こうした課題解決を軸とする対話型・探究型が主流となることは間違いない。
(注記のない写真:Fast&Slow / PIXTA)