秋田と並んで石川、富山、福井の学力も高い

「全国学力・学習状況調査」は、文部科学省が2007年度から実施している調査だ。全国の小学6年生と中学3年生を対象に国語と算数・数学を毎年、また12年度から理科、19年度には英語が加わってそれぞれ3年に1度、4月に調査を実施している。全国的に子どもたちの学力状況を把握するとともに、教育施策の成果と課題を検証し、改善に役立てるためである。

今年は、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染拡大による休校などの影響を考慮し中止となったが、「全国学力・学習状況調査」の結果が出るたびに注目されるのが、秋田県だ。

19年度に行われた調査における都道府県別の平均正答率を見てみると、小学校の国語は1位秋田県、2位石川県・福井県。算数は1位石川県、2位秋田県・東京都。中学校の国語は1位秋田県、2位石川県・福井県、数学は1位福井県、2位秋田県・富山県・石川県、英語は1位東京都・神奈川県・福井県、4位石川県・静岡県・兵庫県、秋田県はそれに続く順位だった。こうして見てみると、秋田と並んで石川、富山、福井といった北陸3県の学力の高さもわかる。

2019年度「全国学力・学習状況調査」都道府県別平均正答率ランキング

小学校
国語 1位秋田県 2位石川県・福井県
算数 1位石川県 2位秋田県・東京都

中学校
国語 1位秋田県 2位石川県・福井県
数学 1位福井県 2位秋田県・富山県・石川県
英語 1位東京都・神奈川県・福井県 4位石川県・静岡県・兵庫県

出所:国立教育政策研究所「平成31年度(令和元年度) 全国学力・学習状況調査【都道府県別】および【指定都市別】調査結果資料」を基に東洋経済作成

少人数学級を早期に導入、探究型授業を約20年前から実践

秋田県が「全国学力・学習状況調査」で成績上位の常連である理由について、秋田県教育委員会教育長の安田浩幸氏は「学校教育と、それを支える家庭、地域が高いレベルで調和できているから」と話す。高い学力は、家庭における基本的な生活習慣や学習に対する意識、また地域の協力など、さまざまな基盤から成るということだ。

秋田県教育委員会 教育長 安田浩幸
1960年秋田県八郎潟町生まれ。新潟大学理学部数学科卒業。秋田県立高等学校教諭、県教育庁高校教育課長、県立秋田高等学校長、全国高等学校長協会副会長などを経て、2020年4月から現職

その強みは「秋田わか杉 七つの『はぐくみ』」としてまとめられ県下にも発信されているが、「基本的な生活習慣がしっかりできており、学校でも家庭でもよく勉強している子どもが多い印象」と安田氏が話すとおり、こうした教育環境が「全体の学力を底上げしている」(安田氏)という分析だ。

とはいえ気になるのは、やはり授業の中身である。秋田県は、早くから少人数学級を取り入れていることでも知られる。学級編制については01年以降、都道府県教育委員会が児童生徒の実態を考慮して、国の標準を下回る学級編制基準の設定が可能になるなど制度の弾力化が図られた。そこで秋田県では、子ども一人ひとりをより丁寧に見られるようにと、01年 に県の単独事業として少人数学級を導入している。

「当時、県内では少子化で1学級が40人に満たないクラスも多かった。そのため、1クラスの人数が多い学校に先生を手当てすることで、少人数学級を実現しました。現在は、小・中学校の全学年と高校1年生を少人数学級としているのに加え、小学校で国語、算数、理科、中学校で数学、理科、英語に講師を加配して指導を行っています」(安田氏)

秋田県内の中学校における探究型授業の様子

秋田県では、かねて探究型の授業にも力を入れてきた。県の最重点課題として「“『問い』を発する子ども”の育成」を掲げ、「児童生徒主体で、子ども同士で探究させたり、投げかけ合ったり、いろいろな協力をさせている」(安田氏)という。今年4月、小学校を皮切りに適用となった新学習指導要領で掲げる「主体的・対話的で深い学び」を約20年前から実践しているのだ。また秋田県の教員は、「指導力のあるベテランの先生が多く、特別な研修を行ってきたわけではないが、各学校が実施する授業研究会が充実しており、探究型授業が日常の授業に根付いて日々実践されている」(安田氏)。この授業を見ようと、全国から秋田県に多くの教育関係者が視察に訪れるというわけだ。

一方で、課題もある。全国一の人口減少率だ。地方の多くが同じ課題に直面しているが、秋田県はその先頭をいく。だが、「統合などの再編を進めながら、少子化だからこそできる手厚い教育を進める」と安田氏は前向きだ。また、小・中学校の学力は高いのに高校は……というのもよく言われることで、難関大学への進学率が低いという指摘もある。

「高校生全体の学力を測る調査があるわけではないものの、高校生に関しても学力の低い生徒が少なく、小・中学校で培った学力は生きていると感じています。『高い学力』を基盤としながらも、さらに今後は子どもの突出した個性を見いだして伸ばし、将来の秋田県を支える人材を育てたいと考えています」(安田氏)

幸い秋田県では、都内と比較して、新型コロナの感染者数が抑えられている。3月の全国的な一斉休校後、4月には学校を再開。4月中旬の緊急事態宣言で再び休校となったものの、新型コロナが学校教育に与えた影響は首都圏ほど大きくはなかった。

休校期間中、オンラインで授業を行った学校も少なかった。県立学校では、全体の6割以上が学校から課題を与えて評価するのにとどまり、動画配信やスタディサプリを学習ツールとして提供した学校は24%程度だった。双方向の授業を実施したのは、Webexを使って授業を行った秋田県立大館鳳鳴高等学校のみである。

だが、いつまた新型コロナが感染拡大するかわからない状況で、「今備えておくことは重要という共通認識の下」(安田氏)、今年度中に小・中学校、高等学校そして特別支援学校も加えて、児童生徒に1人1台の端末を整備する準備を進めている。

「現在ICTは、新型コロナの影響で“必要性”のほうが重要視されています。ですが、すべての授業をICTでやるというよりは、『どう使うと効果があるのか』教科の特性に応じた使い方を研究する必要があると考えています。今の授業に合わせて、ICTを使えば格段に効果は上がるはず。ハイブリッドとよく言われるが、そういう使い方の研究には時間がかかると考えています」(安田氏)

電子黒板を使った教員向け研修を行った

とはいえ現在は、来年4月の導入に向けて、教員全員がICTを使える状態にしておく必要がある。そこで、ICTに長けた県内の高校教員6名をICT活用推進委員に任命し、彼らによる教員研修を実施する準備を進めている。この研修に参加した教員は、それを持ち帰って各自の学校で研修を行うICTの活用推進リーダーとして、授業改善の中心に据える計画だ。

秋田県では来年、県立学校3校をICT活用推進モデル校に認定するという。ICTは導入して終わりではない。どう使うと効果があるのか……導入、活用はもとより、その効果までを見据える秋田県の取り組みに今後も注目したい。

(写真はすべて秋田県教育委員会提供)