無自覚にやっている?子どもを傷つける「教室マルトリートメント」とは 川上康則「笑顔でいるためには安全基地が必要」

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体罰やわいせつ行為など、しばしば報道される学校の不適切な指導や対応。しかし、こうした違法なケースではないものの、学校では子どもの心を傷つけるような指導がほかにも多くあると、東京都立矢口特別支援学校主任教諭の川上康則氏は話す。そういった不適切な指導を「教室マルトリートメント」と名付けて警鐘を鳴らす川上氏に、その実情と改善のためのヒントを聞いた。

教師にとっても「マルトリートメント」は隣り合わせのもの

──「教室マルトリートメント」は、ご自身による造語だそうですね。

マルトリートメントとは「不適切な関わり」という意味です。主に欧米では「チャイルド・マルトリートメント」という表現が広く知られていますが、これは「子どもへの不適切な関わり」全般を指します。「子どもへの不適切な関わり」というと、日本では虐待やネグレクトなどが思い浮かぶかもしれませんが、チャイルド・マルトリートメントにはもっと広い意味があり、日常的な無関心や高圧的な指導なども含まれています。

川上 康則(かわかみ・やすのり)
東京都立矢口特別支援学校主任教諭
公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業、筑波大学大学院修了。著書に『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』(学研プラス)、『子どもの心の受け止め方』(光村図書出版)、『教室マルトリートメント』(東洋館出版社)など
(写真:本人提供)

実はこのチャイルド・マルトリートメントは、親子だけではなく、教室の中にいる教師と児童・生徒の関係においても無縁ではありません。

私は、担任という立場に加えて、特別支援教育コーディネーターという立場で10年間、特別支援学校に限らず地域の幼・保・小・中・高と巡回相談に出向いていましたが、その中で教室における不適切な指導を数多く見聞きしてきました。

体罰やわいせつ行為に関しては防止に向けた教員研修も数多く開催されていますが、こうした違法なケース以外にも不適切な指導がたくさんあるのです。例えば、高圧的な指導で子どもたちを締め上げているケース。そういう学級は、表面上は落ち着いて見えることもあるので大きな問題になりにくいのですが、学校ではこうしたグレーゾーンの指導や関わりがよく見られます。

私はそこに違和感を抱いていて、教師にとってもマルトリートメントは隣り合わせのものだと感じていました。それを強調したくて、教室マルトリートメントという言葉を作りました。

──もう少し詳しく、教室マルトリートメントの具体例を教えてください。

本来、教師とは子どもたちの成長や発達を応援する立場。それと異なる立場で行う指導は、基本的に教室マルトリートメントだと考えています。もちろん体罰やわいせつ行為といった違法行為も含みますが、それ以外でよくあるのは、ネグレクトに類似した関わりと、心理的虐待に類似した関わりです。

褒めるべきときに褒めない、子どもの話を聞かない、必要な支援を行わない、子どもにとって危機的状況が起こっているのに関知しようとしないなどは、教師の指導的立場を放棄しているのと同義ですから、ネグレクトに類似した指導と捉えられます。

心理的虐待に類似する指導としては、威圧的・高圧的な指導をする、事情を踏まえず頭ごなしに叱る、忘れ物をしたときや漢字の「とめ・はね・はらい」に必要以上にダメ出しするなど、子どもたちの意欲を失わせるような対応が該当します。

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