茅ヶ崎市立香川小学校「通知表を廃止」で、子どもたちと先生はどう変わったのか? ボーク重子「学校改革」話題の現場へ、潜入取材

✎ 1〜 ✎ 3 ✎ 4 ✎ 5 ✎ 最新
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

通知表をなくしたからどうだ、という現象にフォーカスするのではなくて、逆になくなったからこそ、先生たちは1人ひとりのことを「こんなによく見ているんですよ」と親に知らせていけば「うちの子どもをしっかり見てくれているんだ」と、応援団になってくれるんです。教員にとって、通知表の作成は、とても神経を使うものです。誰ができたとか、できないとか、丁寧なチェックも必要ですし、万が一間違えてしまうと新聞発表されてしまうくらい繊細な作業なので、時間も大変かかってしまいます。

:先生たちの反応はどうでしたか?

:より丁寧に子どもたちを見る時間が必要なので、実は通知表をなくす前より、働く時間が増えているかもしれません。しかしその時間を子どもたちや保護者との関係をつくるのに使えることで、やりがいがありますと言ってくれる先生も少なくありません。

:通知表をやめて子どもたちは変わりましたか?

:それぞれの先生たちに聞くと、数値で出すことはできないけれど、子どもたちが伸び伸びしていると。例えば、なにか質問をするときにも「こんなこと聞いていいのかな」とか「聞いたらまずいかな」など、先生の顔色をうかがうことが減った気がすると言いますね。

「心理的安全性が担保された」環境の重要性

:心理的安全性が担保された、横並びでオープンにディスカッションできる環境ですね。

:僕は、まさにそれを目指していて。ある時期から「校長が力を発揮し、リーダーシップを」というふうに言われることが多くなりました。リーダーシップとはワンマンでやっていくことだと考えている人もいます。でも本来のリーダーシップは、そうじゃないと思う。みんなが働きやすいことを考えて、自由にディスカッションできる環境をコーディネートすることじゃないかなと思っているんです。

:先生方の間も、フラットな状態で意見を聞いてもらえる環境があれば、その影響は必ず子どもたちにも波及します。先ほどの数値には表せないけれど子どもたちが伸び伸びと質問しやすくなったというところにつながっていますね。

:そうですね。だから僕と教頭も、改革の初めにまずこういう話をしました。3年間は職員の意識改革に費やそうと。それができれば、子どもはきっとついてくるから、その間に親の意識改革もしっかりする。最初のうち何年かは反対されても、まずはそれをしっかりと守っていけば、職員が変わってくれる。職員が変われば、保護者、そして子どもたちは絶対変わると思っていました。

:文部科学省も掲げる、子どもの人間力育成(非認知能力)の基本は目の前でやってみせる手本の存在です。校長先生はじめ先生方が「楽しい学校」を目指して意識改革を始めたことが、確実に子どもたちを変えたのですね。

先生の話を聞いていたら、どんなに難しいと思われる改革であっても、プロセスを踏んで応援団をつくっていけばできない理由はないって思えました。今日は本当にありがとうございました。

★訪問を終えて、まとめ★

カギは「クリティカルシンキング」と、「共感型リーダーシップ」


國分校長先生の改革のカギは「クリティカルシンキング」と「共感型のリーダーシップ」にあると感じました。

「通知表があるのがOKなら、通知表がなしというのもOKなのでは?」というクリティカルシンキングは、今、米国で論理的思考とともに重要といわれている思考法です。改革とは、従来の当たり前に「それだけが正解か?」と疑問に思うことから始まります。

それができるのは「自由に発言できる」「否定、非難、批判されない」という心理的安全性を担保する共感型のリーダーシップがあってこそ。

「答えが出るのは20年後とかそんな先かもしれない。でも社会に出てくる時に『どんな小学校だった?』と振り返って『小学校時代は幸せで楽しかったよ』と言える大人になってほしいと思っています」とおっしゃる國分校長先生と、香川小学校の愛と勇気あふれる改革のプロセスを、最高に応援しています!
次ページはこちら
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事