職員室のリノベーションで「働き方が変わる」学校事務職員の知られざる底力 イノベーションを起こす土壌をどうつくるか
しかし、一通りの作業が終わった後、教職員から互いをねぎらう言葉が出ることはなかったように記憶しています。職員室全体がシーンとして、疲労感でいっぱいで、新しいレイアウトに違和感を感じている様子でした。
自分なりに無我夢中で取り組み、ビジョンを掲げて進めてきたつもりだったのですが、「何のために職場改革を行うのかがよくわからないまま、いろいろな作業をやらされている」という意識を拭いきれなかったのでしょう。「教職員みんなで職場環境を変えていこう」というムーブメントが職場全体に行き渡らず、思うような“結果”が得られませんでした。
「このまま職員室改革を続ける意味はあるの?」という意見も周りから出始めたりして、正直、「しんどいな。(プロジェクトを)やめるきっかけがあったらやめたいな」と思う時期もありました。
――“ピンチ”からどのように脱却されたのですか?
リーダーとしての責任感から自分一人で仕事を抱え込んでいた部分が多かったのですが、ふと周りを見てみると、前向きにアイデアを出す教職員の存在に気づいたのです。そんな教職員と対話を重ねるうちに、少しずつ自分の視野が広がっていきました。もう1つは、当時、「職員室改革の取り組みが珍しい」ということで取材や視察が多く、それらを自分一人で対応するのではなく、ほかの先生にも可能な範囲でお願いすることにしたのです。
先生たちが取材や視察に対応する様子を目にしながら、改めて「この先生はこういうふうに考えているんだ」と、先生の思いを客観的に知ることができ、大きな学びになりました。これを機に、皆さんの考えを吸収する努力をしようと思い始めてから、プロジェクトを進めていくことが楽しくなりました。
――学校全体で当事者意識が芽生え始め、コミュニケーションが活発になってきたのですね。
そうですね。ちょうどその頃、他校から“片付け方”が得意な先生が異動してきたのです。その先生が、自分の机の上に置いてあるものや引き出しにしまってあるものを付箋に書き出し、皆で対話しながら「何を個人持ちにして、何を皆で共有化すると働きやすいか」を考えていくワークショップを考案しました。これがとても好評で、職員室改革のモチベーションがさらに上がったと思います。
その後は、職員室で立ち会議ができるハイカウンターを置いたり、グループウェアを導入したり、情報を共有するためにホワイトボードを置いたりなど、さまざまなリノベーションを行いました。
富士見台小には8年在籍しましたが、異動が決まり、最後のレイアウト変更をしたときに、職員室の皆さんが大きな拍手でたたえ合っていたのが印象的です。この学校で「働く場改革から始める働き方改革」の種をまき、芽吹かせることができたのかもしれないと実感できた、うれしい瞬間でした。
まずは「職員室のモノや人の動きを観察すること」から
――職員室リノベーション、「初めの一歩」を踏み出すのに大切なことはどんなことですか?
まずは「職員室のモノや人の動きを観察すること」だと思います。そして、例えば「コピー機の場所が教職員から遠い」など、小さな課題を見つけたらそれを共有する人を見つけ、コピーの場所を移動すべく一緒にアクションを起こして実現してみる。モノの場所を移動し人の動線が変わることで新たな課題が出てくることが多いですが、その課題からまた新たな気づきや発見が生まれます。
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