マルチタスク時代の「報酬制度」をどう設計するか カギになるのは「裁量」と「管理」のバランス

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(写真:bee/PIXTA)

会議資料を作成しつつ顧客からの電話に応対し、新規顧客開拓のため営業をしながら部下の仕事の進捗を確認する──。現代のビジネスパーソンの仕事は複数の任務から構成される「マルチタスク」であることが多い。本稿ではこのマルチタスクについて、システムの側面から考えたい。

どんな場合にマルチタスクが望ましいか、また、どんな報酬体系がよいか。これらを考える際に有用なのが、経済学の契約理論分野で扱われる「マルチタスク問題」だ。これは、複数の任務(仕事)を負う代理人(労働者)における、「インセンティブ設計の問題によって引き起こされる努力配分の歪み」を指す。

例えば、医師の仕事は重症患者と軽症患者の両方を診察する点でマルチタスクだが、もし患者の死亡率のみによって報酬が決まるなら、「死亡リスクの高い患者は受け入れない」という行動が採られるかもしれない。

マルチタスク問題をシステムの観点から解決する方法は大きく分けて2つある。1つは、誰にどの仕事をいくつ割り当てるかといった職務設計である。経済学者のアダム・スミスは、『国富論』で、各人が得意分野に専念することで全体の効率性が最大化される「分業の利益」を説いた。だが、マネジメントなど、多くの要素が補完し合う業務の場合、分業すると効率性が失われるかもしれない。

もう1つは、報酬制度をうまく設計し、バランスのよい業務遂行へ誘導する方法である。例えば前述の医師の例では、死亡率(=質)だけではなく、受け入れ患者数(=量)も報酬に影響させることで、問題を防げるかもしれない。

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