新学習指導要領の学習評価「3観点」を活用して主体性を育成、脱・証拠探しへ プレッシャーが呼ぶ「えんま帳」「細切れ評価」

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これは、前述の「総括的評価のポイントを、思い切って重点的に設ける」ことができていない状況だ。ここをどう工夫するかが、教員の力量が試される部分だろう。

「合唱会があったり図工の作品発表があったりと、5教科以外の実技教科ではすでにダイナミックな評価の舞台が実現できていることも多いです。5教科でもグループで取り組ませたり、身の回りのことを題材にしたり、子どもが学びがいを感じやすい取り組みを考えるとよいでしょう。子どもたちが積極的になれる取り組みなら、教員も一歩引いて、より丁寧に見ることができるし、子ども自身の振り返りを評価の補助として活用することもできます」

主体的に学習に取り組む態度を評価するために最も重要なことは、やはり新学習指導要領の本丸である授業改革なのだ。

子どもの力を伸ばすことに注力し、旧来の垢を落とすべき

評価の正当性を高めるため、教員はたくさんのデータを集めたくなるが、「証拠集めのための細切れの評価は、反対に子どもの納得感を薄めてしまう」と石井氏は苦言を呈した。

「例えば『なぜ自分が7点であの子が10点なのだ』と子どもが不満を抱いたとしましょう。子ども自身が評価に納得するためには、教員と同じ物差しを共有しておくことが大切です。作品をクラスのみんなで見て、そのよさを一緒に話し合うのも一つの手でしょう」

よりよいものを見ることによって、子どもは「なるほど、10点を取るのはこういうものか。それなら確かに自分は7点だ」と納得することができる。石井氏は「この例の10点とは単なる序列ではなく、級のようなもの」と補足する。

「これが1級なら確かに自分は3級だと感じた子どもが、次は2級を目指そうと感じることができる。これを『適切な憧れ』と呼んでいます」

教員が重視すべきことは子どもに序列をつけることではなく、この適切な憧れを子どもに抱かせ、次の級に上がれるように指導すること。つまり子どもの力を伸ばしきる形成的評価だ。

「授業に注力すれば主体的な態度はおのずと表れる」「形成的評価と総括的評価を分ける」など、石井氏は3観点の活用法を実にシンプルに解説した。しかし、シンプルに捉えられるはずの基準が、なかなか現場になじまないのはなぜなのか。

「日本の教育現場ではこの30年ほど、目指すものとまったく違う教育が定着してしまいました。低年齢化する受験のテクニックなどもいい例です。『やり方主義』が行きすぎて、子どもが学んだことを自分なりにそしゃくするような機会はあまりありません」

これにより、「思考・判断・表現」の段階が伸びず、「わかる」能力の空洞化も起きていると石井氏は指摘する。それは当然、その先の「使いこなせる」能力にも影響を及ぼすだろう。

「学びのピークが受験では早すぎるし、大人になっても学び続けることこそが、社会の変化への対応力になるわけです。生きることと学ぶことはセットですが、日本はこの意識がとても弱いのです」

この垢を落とすために、石井氏はさまざまな例を挙げ、繰り返し学校現場への問題提起を続けているのだという。

「人に点数をつけるということがプレッシャーになることはよくわかります。総括的評価で決め打ちすることが心苦しいのでしょう。でもその結果、日常のプロセスを重視する風潮が強くなりすぎて、教員の働き方を圧迫している。ぜひ勇気を出して、この前例踏襲の空気を打ち破ってほしいと考えています」

(文:鈴木絢子、注記のない写真:IYO/PIXTA)

東洋経済education × ICT編集部

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小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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