東急「歌舞伎町タワー」、激戦区で勝つ差別化戦略 シネコンもホテルも高単価でプレミアム感
9〜10階には東急系のシネコン「109シネマズプレミアム新宿」が入居する。名称に「プレミアム」が付いていることからわかるとおり、スクリーン数は8だが、席数は752と少なめ。「本来なら1600席くらい取れるが、席数を減らしてプレミアム感を出した」と、映画館を担当する久保正則・東急レクリエーション映像事業部長が説明する。
従来のシネコンでは上映を待つ客がロビーにあふれ大混雑することもある。そのため、ラウンジを設置して座ってゆったりと待てるようにした。また、最近は座席間隔を通常の席よりも広くしたりリクライニング機能を付けたりするなどしたプレミアムシートを一部の席に導入するシネコンが増えているが、「すべての座席をプレミアムにする」という。
座席はA席とS席の2種類。「たとえば109シネマズにはエグゼクティブシートがあるが、ここではA席がエグゼクティブシート相当以上となる」(久保部長)。ということは、S席はさらにプレミアムなシートということになる。
当然価格帯は高めになる。109シネマズの場合、一般料金が1900円で、エグゼグティブシートの料金は2700円。しかし、定員を通常の半分にしてプレミアム感を出しているのであれば、1人当たりの料金は通常の2倍程度の4000円近くになる可能性もある。髙橋社長は「オーバーにいえば1人5000〜6000円くらいの客単価にする分、それに見合った付加価値を提供する」と話していたが、はたしてどうなるか。「映画を見に行ったのではなく、あの建物に行ってきたといえるくらいシンボリックなものを目指す」(髙橋社長)。東急歌舞伎町タワーで映画を見たこと自体を人に自慢できるような体験を提供したいという。
プレミアム戦略を選んだ理由
ではなぜ東急はプレミアム戦略を選んだのだろうか。混雑を減らし、密を緩和するという点ではコロナ対策が理由といえるが、それだけではない。
「新宿はすばらしいシネコンが集積する日本最大の映画市場」と久保部長は言う。裏返せば競争相手が多いということだ。かつての歌舞伎町には多数の映画館があったが、上映する映画はそれぞれ違っていた。しかしシネコンの場合は上映する映画の重複は避けられずガチンコ対決となる。東急の試みは差別化によって競争を避ける戦略といえる。「この1本だけはここで見る」ことで、ほかのシネコンとの共存を図りたいという。
シネコンの下の階は6〜8階に収容人数は約900人の劇場、地下には約1500人を収容できるライブホールが設けられる。もっとも、ライブホールや劇場の成否は「箱」よりも、どんな公演が行われるかにかかっている。「こけら落としの目玉は何か」という質問が会場から出されたが、「次回の会見時に具体的に説明するのでもう少し待ってほしい」という回答にとどまった。はたしてどのような内容となるか、興味津々だ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら