競争率1000倍、サウジ鉄道「女性運転士」大募集 研修生枠は30人、従来の「タブー」打ち破る英断
サウジアラビアでは、かつて女性の社会参加が”絶望的”とも言えるほどに不可能だった。一般商店の店員さえもすべてが男性で、「女性が下着を買うにも、男性にお金を払って商品を受け取る」という状況だったという。筆者は2012年に開催されたロンドン五輪の際、サウジアラビア初の女子五輪代表が柔道選手として戦う姿を会場で目にした。結果はもとより、競技終了後には女子選手の声を直接聞こうと各国のメディアが殺到したのだが、結局マイクを通じて聞く声は男性コーチによるものだった。
同国では長きにわたって、女性だけでの外出も禁止されてきた。だが、2018年には自動車運転が解禁、2019年には男性保護者の許可がなくてもパスポートを取得したり、海外渡航したりすることが合法化された。
そんな中、同国の鉄道専門学校は今年1月、女性だけを対象にHHRの運転士候補を募集する大英断を行った。何十年もの間、列車の運転士は男性が就く職業と見なされ、女性が入る余地がなかった。つまり”タブーを打ち破るプロジェクト”として国内では注目を浴びた。
志願者はなんと約2万8000人
研修生枠は30人で、年齢は22歳から30歳。枠に残れば、HHRの運行を受け持つスペイン国鉄の現地子会社Renfe KSAに雇用される形となる。医療保険や社会保険が完備、研修期間中も月給4000サウジアラビア・リヤル(約14万円)が支給される。そして、研修を修了しサウジアラビア鉄道に就職すると、最高で月給8000サウジアラビア・リヤルを支給するともうたわれている。
わずか10日余りの募集期間中、集まった志願者はなんと2万8000人にものぼった。募集を担当した鉄道専門学校の幹部は「高い英語力や高校卒業時の高い成績を求めたにもかかわらず、こんなにも集まった」と喜びを隠さない。志願者はオンラインによる審査でおよそ半分の1万4000人に絞り、さらに試験と個人面接を通じて研修生候補者を決定した。
研修は3月から開始し、HHRが保有するオペレーションセンターの施設でRenfeのスタッフによるレクチャーが行われている。現在、HHRでは55人のサウジアラビア人運転士が働いており、さらに48人が研修中。ここに女性運転士候補が加わることになる。
サウジアラビア統計総局によると、同国の労働人口における女性の参加率は、2016年の19%から2020年末には33%に上昇し、女性の労働力参加という目標を10年前倒しで達成したという。目下、世界経済フォーラム(WEF)の「ジェンダー・ギャップ指数2021」でサウジアラビアは156カ国中147位となっているが、この順位も徐々に上がっていくことだろう。ちなみに日本は同指数で120位と、G7はもとより”先進国の中で最低”となっている。
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