教員免許更新制廃止後に「研修記録の作成」義務化、迷走し続ける教員政策 国がいちいち強制、教師の質保証に疑問も

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あるいは、研修記録を取ってもあまり活用できていない、形骸化しているなどと、地方議会や私のような者が批判しようものなら、「ちゃんとやってますよ」という報告を教育委員会や学校で作る、というような仕事が増えるかもしれない。教育委員会職員や教頭が書類作業でさらに忙殺されるようでは、教師の学びを促すことからはマイナスである。

「教師不足」で講師の資質うんぬんなど言っていられない

「いやいや、文科省としては、子どもたちのために、全国どこでも、一定の資質を持つ教師がそろっていることを確保するために、今回の研修履歴の活用も含めて、教師の新たな学びを整備していく必要がある」

おそらく文科省はそう言うと思う。

このロジックがおかしいこと(研修履歴の義務化とつながらない)は前述したが、それでも、そこまで教師の質が大事だと言うなら、文科省と教育委員会は、教師不足の問題にもっと時間と予算と頭を使うべきだ。

これも地域差や校種による差はある話だが、この4月当初から欠員、未配置を抱えたままスタートしている学校もある。年度途中に産育休や病気休職、また離職(退職)が出れば、そこをカバーする先生がいない。小学校で学級担任が配置できず、やむなく副校長・教頭が代行する。中学校や高校で専門外の先生が授業をしないといけない。ここ数年、そんな事態が各地で起きている(全国で2558人「先生足りない」教員不足の実態、専門家どう見る?)。

本当は、誰だっていいわけではないのだ。だが、代替要員として来てくれる、しかもこの忙しい現場を助けてくれる講師の資質をうんぬんしている場合ではない、というのが多くの学校現場の実情であろう。ある市では講師バンク(登録者)が枯渇しており、十数校待ちの状態だという。つまり、講師を選んでいられないのだ。

しかも、教員採用試験に不合格だった方や大学を出たばかりで経験のない方、または70歳前後の方が講師になっていて(もちろん、そうした方の中にはすばらしい方もいるが)、ろくな研修もなく、即戦力として活用しようとしている。

教師の質の保証とか向上と言うなら、この問題にもっと対処することのほうが、はるかに重要である。

たいへんな難題ではあるが、例えば、ピンチヒッターとして駆けつけてくれる講師の処遇を上げることや、社会人からの転職障壁を減らしていくこと、また、今は各校の校長などが人脈を頼りに講師になってくれないか電話をかけまくっているが、人材募集を広域でスマートに進められる仕組みをつくることなどは、国がもっと関わっていいと思う。もちろん、採用を担う都道府県・政令指定都市などの教育委員会が進めるべきことも多い(正規採用を絞りすぎていないか、採用計画の検証・見直しなど)。

教師の質の保証、向上が重要なことは誰も反対しない。だが、そのための手段として、本当に国と各自治体がやるべきことは何なのか。くれぐれも書類を増やして、仕事をした気にならないでほしい。

(注記のない写真:SuperOhMo / PIXTA)

東洋経済education×ICTでは、小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。
妹尾 昌俊 一般社団法人ライフ&ワーク代表理事、OCC教育テック大学院大学 教授

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せのお まさとし / Masatoshi Senoo

徳島県出身。野村総合研究所を経て、2016年に独立。全国各地の教育現場を訪れて講演、研修、コンサルティングなどを手がけている。学校業務改善アドバイザー(文部科学省委嘱のほか、埼玉県、横浜市、高知県等)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁において、部活動のあり方に関するガイドラインをつくる有識者会議の委員も務めた。Yahoo!ニュースオーサー。主な著書に『校長先生、教頭先生、そのお悩み解決できます!』『先生を、死なせない。』(ともに教育開発研究所)、『教師崩壊』『教師と学校の失敗学』(ともにPHP研究所)、『学校をおもしろくする思考法』『変わる学校、変わらない学校』(ともに学事出版)など多数。5人の子育て中。

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