サイバー攻撃に遭った町立病院「2カ月間の記録」 日本の医療機関のセキュリティ対策が課題に
職員によると、患者は来院日時は覚えていても、どの診療科にかかるのか、何の検査を受けるのか、どのような処方を受けるのかを把握していないケースが多く見られたという。逆に、患者の顔は覚えていてもどのような病気で来院しているかまでわからない場合が多いことを、医師含め病院職員は思い知らされた。
病院は災害による停電などで電子カルテがダウンした場合に備えて、倉庫に紙のカルテを準備している。防災訓練で紙カルテを使う練習はしていたが、実際に長時間紙カルテを使うとなると現場は混乱した。カルテはもちろん、薬を出す処方箋も手書きになった。
検査や投薬の指示もすべて手書きで対応
同院が電子カルテに移行したのは10年ほど前。移行前の紙カルテ時代を知っている職員もわずかながらいたが、医師などが検査や投薬の指示を伝えるためのオーダリングシステムも使えないため、オーダー用紙も手書きとなり、単に10年前に戻るだけにはとどまらなかった。
電子カルテしか知らない若い医師、看護師はそもそも紙カルテを見たこともなく、キーボードの打ち込みに慣れているだけに、紙に記入する手間が現場を圧迫した。
筆記用具での記入の手間を少しでも減らすために、職員は病院周辺の文房具店に複写用のカーボン紙を買いに走った。これにより、同じことを何度も書き込む必要がなくなり、手書きの処方箋をカルテに貼り付ける作業も必要なくなった。
また、院内の倉庫にあった使わなくなったパソコンを引っ張り出してきて、文書作成機能や表計算だけを使う工夫もした。保険証や検査結果、お薬手帳をコピーするため、近隣の家電量販店で簡易型の卓上コピー機を購入した。
病院として、患者の不安をどのように取り除くかも大きな課題だった。サイバー攻撃の被害に遭ったことは、連日、地域のメディアで報道されていた。院内の待合室にあるテレビで同院のことを伝える情報番組が放映されると、患者はそれを見て不安を募らせた。
さらに院内のシステムが動かなくなったことで、診療で患者を長く待たせる事態も起きた。電子カルテのデータが閲覧できないため、退院証明書や領収証明書の発行、高額療養費を申請する資料の準備もできない。いらだつ患者に対して、職員は理解を求めようとていねいに説明した。
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