金融所得課税、岸田首相があきらめた3つの理由 「1億円の壁」越え、財務省は本気だったのか

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9月の自民党総裁選前に盛り上がった金融所得課税の強化。しかし、年末の税制改正では見直しの期限すら盛り込まれない腰砕けの結果となった。背景に何があったのか。

岸田文雄首相は金融所得課税の強化を訴えたが・・・。写真は総選挙後の2021年11月に行われた記者会見の模様(撮影:JMPA)

「財務(省)の人たちもいったいどこまで本気だったのか。あの腰の折れ方を見ると、はなはだ疑わしいけどね」

2022年度の税制改正であえなく見送りとなった株式の譲渡益など金融所得への課税強化について、経済官庁のある幹部はこのように振り返る。

12月10日に決まった与党税制改正大綱においても、金融所得課税をいつまでに見直すという期限すら盛り込まれなかった。永田町の議員たちを陰に陽に振りつけていた財務省にしてみれば、完敗ともいえる結果だった。

「1億円の壁打破」とぶち上げるが…

振り返ると、財務省の振り付けは、2021年9月までは面白いように機能していた。9月の自民党総裁選の立候補者4人のうち、3人が金融所得課税の強化に言及。中でも、もっとも声高に主張していたのが岸田文雄首相(当時の肩書きは前政調会長)だった。

総裁選前の9月上旬に開いた記者会見では、「令和版所得倍増計画」と称し、「中間層の拡大に向けて分配機能を強化し、所得を引き上げる」とぶち上げた。その財源の1つとして挙げたのが「金融所得課税の見直しなど『1億円の壁』打破」だった。

1億円の壁とは、所得税の負担率が課税所得1億円を境目にして低下していく現象のことだ。所得が増えると累進的に税率が上がる給与所得と異なり、株式譲渡益などの金融所得は税率が一律20%であることが負担率低下の要因とされており、大衆受けを狙って「株長者」をはじめとした富裕層への課税強化を打ち出したわけだ。

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