西欧の模倣で中・東欧が混乱 自由民主主義は自己鍛錬必要
評者/北海道大学大学院教授 橋本 努
1989年に冷戦構造が崩壊すると、世界は自由と民主主義の社会に収斂(しゅうれん)するだろうという希望的観測が広がった。だがそれから30年余りを経た現在、世界の各地で権威主義の政権が台頭している。いったいなぜかといえば、西欧的価値を模倣すること自体に大きな罠があった、というのが本書の視点である。
共産主義体制の失敗を経験した東欧、中欧諸国のエリートたちは、自由化、民主化を急いで進めるために、西欧の価値と制度を誠実に模倣した。ところがその結果、自国のアイデンティティーや伝統が否定されてしまう。反動として権威主義的な指導者たちが支持を集めることになった。政治・経済は混乱に陥った。
米経済学者T・ヴェブレンの指摘では、日本人は西洋の産業技術を借用したものの、西洋的な精神態度や行動規範を借りることはなかった。日本人は比較的、西洋の模倣をうまく制御できたという。ところが冷戦後の中・東欧人たちは、西欧社会を模倣しすぎたがゆえに、その価値に裏切られたのだと本書は指摘する。
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