東奔西走した財務官の証言、為替政策で怖いのは円安
評者/BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎
為替レートが大変動する場合、行き過ぎを避けるために日銀が市場へ介入する。ただ、日銀は代理に過ぎず、為替政策を決定するのは財務省で、財務省には財務官という為替政策など国際問題を担当する次官級ポストがある。本書は、2015年から19年までその任にあった財務官僚の証言だ。定評ある金融記者の質問に答える形で、複雑な通貨、租税外交の現場をわかりやすく伝える。
在任中、米国経済は回復傾向にあった。本来、米国金利が上昇しドル高になりやすいはずだが、人民元急落やブレグジット、トランプ大統領誕生など大事件が重なり、円高が進んだ。いかに経済がサービス化したといっても、1ドル=100円を割ると輸出企業が騒ぎ出し、風景はがらりと変わる。また、為替介入を米政府が受け入れるかどうかもわからない。行間には為替介入に踏み切れない苦悩がにじむ。
興味深いのは、為替政策の観点から、円高ではなく、むしろ円安が怖いと論じる点だ。理屈上、円高阻止のための円売り介入は無制限に可能だが、円安阻止のための外貨売り介入は外貨準備に制約されるため、という。公的債務が大幅に積み上がり、円安が行き過ぎた場合、日銀が利上げで阻止することは公的債務管理の観点から容易ではない、という問題もあるのかもしれない。
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