行き過ぎた自由貿易に国内政治が勝った「今」
評者 BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎
8年前に原著が出版された『グローバリゼーション・パラドクス』は衝撃的な内容で、グローバリゼーションと民主主義、主権国家の3つの同時追求は難しく、このまま先進各国がグローバリゼーションを推進すると、社会は分断され、政治が不安定化すると警告した。その後、英国はEU離脱を国民投票で選択し、今も政治混乱が続く。米国ではトランプ大統領が誕生し、米中貿易戦争が始まった。
本書は、国際経済学の専門家がここ数年の国際社会の大変化を踏まえ、貿易問題や経済成長、民主主義などを幅広く論じたものだ。反自由貿易の書ではないが、近年の貿易自由化は、国民との間で結ばれた社会契約に大きな変更を迫り、行き過ぎと論じる。
経済学者の姿勢も問題視する。経済理論は自由貿易の利益の裏側で、損失を被る産業や労働者が存在することを示すが、自由貿易の利益ばかりが強調され、経済学そのものへの信頼も損なわれたと批判する。所得格差拡大の主因は技術革新である可能性が大だが、貿易の負の側面への言及が避けられたため、自由貿易を犯人と思い込む人も増えた。
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