人間行動の研究とともに変わる経済学の啓蒙書
評者 BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎
ある大学での実験結果。経済学を学んでいる学生に利己的な行動を取る人が多かった。経済学を学んだから利己的になったのか、利己的な人が経済学を専攻したのか。経済学者はどう答えるのだろう。
本書は、幅広い分野で突出して優れた業績を残し、2014年にノーベル経済学賞を受賞したティロール教授が著した経済学の啓蒙書だ。さまざまな分野を網羅するだけでなく、米国の高額な報酬との格差を含め学界事情も率直に語っているからか、研究者の間でも話題になっている。
本書を開いて安心する人も多いはずだ。経済学では合理的経済人を仮定することが多いが、この仮定は時として行き過ぎで、我々が適切な選択のための十分な情報を持ち合わせていないことや認知バイアスから逃れられないことをまず強調する。本書で取り上げるさまざまなトピックに共通するのは、情報の非対称性が引き起こす経済問題である。
ひと昔前は、主流派経済学者というと市場を絶対視するイメージが強かった。しかし、市場はあくまで手段であり、それ自体が目的ではないこと、また国家と市場は相互補完的な関係にあり、政府の仕事は市場の失敗を正すことだが、決して市場の代わりにはなれないことを具体例で論じる。
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