国内最大手の楽器メーカー・ヤマハの代名詞と言えば、ピアノだ。そもそもヤマハのルーツは鍵盤楽器にある。1887年に創業者の山葉寅楠(やまは・とらくす)氏がオルガンの修理に成功し、同じ年にオルガンを製作したことが創業のきっかけだ。
ピアノの世界市場規模は約3000億円(ヤマハ調べ)で、ギターと並ぶ楽器市場の2大巨頭だ。ヤマハは「YAMAHA」ブランドを全世界に展開。アコースティックでは高級グランドピアノから小型のアップライトピアノ、さらに電子ピアノもアコースティック鍵盤の感触を再現した高単価のものから、小型のキーボードまで品ぞろえは幅広い。
2008年にはオーストリアの名門ピアノメーカー「ベーゼンドルファー」を約25億円で買収し、高級ピアノ戦略を強化している。一方、成長市場の中国では、現地メーカーの「パールリバー」が背中を追いかけてくる。日本をはじめとする先進国市場には頭打ち感がある中、ヤマハはアコースティックピアノと電子、高級品から廉価品と全方位戦略を進める。中田卓也社長が思い描く戦略とは。
ヤマハのピアノは世界に追いついた
──ベーゼンドルファーを買収して10年が経ちます。高級ピアノ市場をどのような戦略で攻めますか。
戦略としては、ヤマハとベーゼンドルファーの両方でピアノの頂点を目指している。両社のグランドピアノは同じ形をしているが、作り方が異なっており、ピアノとしての性格がまったく違う。
ヤマハのピアノは、薄い木板を曲げて何層にも貼り合わせるという主流の作り方を採用している。大ホールで弾く、協奏曲のような音量を求める場合に向いている。一方、ベーゼンドルファーは大きな木の塊から曲面を削っていくのだが、もう少し繊細な感じがする音色を出す。小ホールや室内楽で使う場合には、こちらの音を好む人がいる。
どちらがよいとか悪いとかではなく、弾く音楽や弾き方、音をどう表現したいかによって変わってくる。どちらもなくしたくないという思いで、われわれはそれぞれで頂点を目指している。
ただ歴史の分だけ、ハイエンドとしての認知度はまだ不足している部分もある。1900年頃からさまざまなホールにピアノを置いてきた米スタインウェイ&サンズが最も認知度が高い。どのホールにも置いてあるので、ピアニストも安心して弾けるという思いがあるのだろう。
ヤマハのピアノから出てくる音や表現力が劣っているとは感じていない。着実に世界のレベルに追いついたという認識を持っている。コンクールの参加者は自分の賞を懸けてピアノを選ぶが、前回(2015年)のショパン国際ピアノコンクールでは、ファイナルに残った10人の出場者のうち半数の方々にヤマハのピアノを選んでもらえるまでになった。
──そもそも高級ピアノ市場を攻める意味とは。
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