傾聴に値する複眼的な関心
評者 慶応義塾大学経済学部教授 土居丈朗
大成した経済学者は、学生時代からどのような関心を持ち、どのような経験を経て経済学の研究を深め、現状や将来の課題をどう見ているか。本書には17人の経済学者のメッセージがまとめられている。
本書に自らのメッセージを寄せた経済学者は、資本主義と社会主義が対立する冷戦時代に研究者の道を歩み始めた。その多くは、(1ドル=360円の固定相場下で)米国の大学院に留学した。まだ、日本の大学院では今のような十分な経済学の研究環境が整っていなかった時期でもある。
そして、冷戦終結という予期しなかった時代の大きな変化を経験しながら、経済学の水準を高めていった。その賢人の言葉には、性質は異なるものの予期できない時代の大きな変化に直面する現在、どのような姿勢で臨めばよいかについて多くの示唆が得られる。中でも、教養と実務、理論と実践、他分野との交流といったように、多くの人や意見に触れて、複眼的な関心を持つことの重要性を、多くの経済学者が表現は異なるものの共通して挙げている。異論に対して不寛容さが増している今日、実に傾聴に値する。
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