表現法について、最も重要なのは反復可能性だ。特別な才能に恵まれた人の勉強法は、一般人には反復不可能なので、技法を伝授することができない。
標準的な努力をすることができ、高校レベルの知識があるならば、誰でも習得できるような技法が表現においても重要だ。このような技法を伝える達人が何人かいる。その1人が、今年4月17日に86歳で亡くなった上智大学名誉教授の渡部昇一氏だ。渡部氏は、歴史修正主義的な立場を取る保守派の論客として有名だった。それゆえにリベラル派の論壇人や学者は、渡部氏の政治的傾向に忌避反応を示し、同氏の著作を読まない。それだから渡部氏が傑出した知識人であったことに気づかない。
こういう姿勢はフェアでないし、政治的視点から渡部氏を切り捨てると、同氏が持っていた優れた知的技法が継承できなくなる。渡部氏の著作は100冊を超えるが、表現法の観点からは、『知的人生のための考え方──わたしの人生観・歴史観』(PHP新書、2017年)が役に立つ。
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