外務官僚時代、筆者も起案者名や秘密指定をあえて書かない(内容的には極秘に相当する)「闇文書」を、担当官メモという形で数百通作成したことがある。それは万一、流出したら深刻な事態になることが想定される内容の文書だ。北方領土交渉に関する機微に触れる情報、外国インテリジェンス機関が非合法な手段で入手した某国政府内部の情報、他省庁の動静に関する調査報告書、政治家から不当な要請がなされた場合などだ。
特に政治家に関連する文書については、外務省の幹部には、それぞれ庇護者となる政治家がおり、それだから、この種の文書が政治家に流れる可能性がある。文書の内容によっては、露見すると首相官邸や有力政治家から「なんでこんな話を記録に残したんだ。内々に処理すればいいじゃないか」と圧力がかけられる場合がある。そのときに備えて、日付だけを書いて、主管課名も起案者名も書かないことがある。
このようにして「詠み人知らず」の「怪文書型公文書」ができる。仮にこのような文書が表に出ることになっても、「出所不明の文書で確認不能」という話で、文書に登場する政治家も文書を作成した官庁も逃げることができる。外務官僚時代、このようなスタイルで仕事をしていることに筆者は疑問を感じなかった。しかし、今では大きな間違いで、やるべきではなかったと反省している。なぜなら、外務省が持つ情報は、原則としてすべて主権者である国民のものであるからだ。
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