主因は存在せず、多数の要因が複雑に影響
評者 BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎
失業率は3%を割り、有効求人倍率もバブルのピークを超えた。人手不足は深刻だが、統計を見る限り、賃金の上昇ペースはかなり鈍い。本書は、日本の最大の謎を解くべく専門家が結集し、分析結果をわかりやすく解説したもの。まずわかったのは、決定的要因は存在せず、さまざまな要因が複雑に影響していることだ。
評者が以前から気になっていたのは、統計上、賃金上昇が過小評価されているという点だ。個々の賃金が上昇しても、少子高齢化の影響で、高賃金の中高年が大量に退職すると、平均賃金は抑制される。継続就業者の賃金を推計すると、過去20年で年平均4%、中位値では年2%上昇していたという。米国でも、賃金の伸びが遅れる理由として人口動態の変化が影響しているという指摘が増えている。
ただ、かつての課長や部長は今の課長や部長より給料を多くもらっていた。企業内訓練や研修が減り、人的資本は蓄積されず、生産性が低迷していることが背景にある。深刻なのは就職氷河期に入社した30代後半から40代前半の世代で、前の世代に比べ賃金は明確に低いという。就職活動期の不況の悪影響が未だに続いているのだ。
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