権力の位相・変移から日中関係を読み解く
評者 慶応義塾大学環境情報学部教授 渡辺 靖
トランプ外交には「反オバマ」としての側面がある。外交は内政と不可分であり、対外政策の理解には内政の理解が欠かせない。
その点は中国も同じだ。海洋進出から歴史認識問題、「一帯一路」構想、北朝鮮問題に至るまで、中国が話題にならない日はない。しかも「大国」としての中国の存在に私たち自身が不慣れ(少なくとも近代以降においては)なこともあり、日中関係を見つめる視座も左右に大きくブレがちだ。
その意味で、本書は極めて有益かつ重要な著作である。著者は今日の日本における最良の中国研究者であり、地域研究・国際政治学・政治学のいずれからも敬意を集める稀な存在である。中国各界の要人とのパイプも太く、現在進行中の機微にかかわるテーマに関しても緻密にフォローし続けてきた。長年、慶応義塾大学教授を務め、5年前から防衛大学校長の重職にある。
本書の狙いは、中国の国内政治、とりわけ中枢部における権力の位相とその変移という観点から、今日の日中関係を読み解く点にある。言語の壁はもちろんだが、相手が閉鎖的な体制ゆえ、情報の峻別や意味づけには高度なリテラシーと経験を要する。まさに著者にしか書けない一冊と言ってよい。
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