通貨を切り口に紡がれる 人間と国家の大河ドラマ
評者 北海道大学大学院教授 遠藤 乾
本書は、緻密な取材で定評のある中国専門記者による、渾身のノンフィクションだ。
切り口は通貨・人民元。紡がれているのは、人間と国家の大河ドラマである。
人民元という「空飛ぶ絨毯」に乗り、取材先は日中英米はもちろん、果てはグルジア、テルアビブまで。
焦点は三つ巴。第一は、中国における国家建設、権力集中の歴史である。「瓜分の危機」にある分裂ぎみの「中国」では、抗日戦争期に60以上の貨幣が出回っていた。チベットの独自通貨は進駐後まもなく放逐。集権化の下、人民元が中国史上初の統一通貨となった。それでも、今の第5世代の人民元が流通し始めたのは、20世紀末のこと。従来さまざまな意匠が使われていた紙幣に毛沢東の肖像画がすわり、やっと国家像が見定まったように映る。将来的には一国二制度の下で流通する香港ドルの行方が注目される。
第二は、日中関係であろう。円・元は、「¥」のシンボルも、「丸い」という語源も共にする。この重なり合いが、日中の協力とせめぎ合いの双方をもたらす。通貨マフィア同士の付き合いは深く、度々の危機を生き延びた。
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