道徳哲学の泰斗が問う「格差は悪なのか?」 書評:ポピュリズムはグローバルへ化の反動か

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民主主義の内なる敵
民主主義の内なる敵(みすず書房/256ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
Tzvetan Todorov●仏国立科学研究所芸術・言語研究センター研究指導教授。1939年ブルガリアのソフィア生まれ。73年フランス国籍取得。『小説の記号学』で記号学的文学批評の先駆をなす。このほかに『幻想文学論序説』『他者の記号学』『ゴヤ』『歴史のモラル』など著書多数。

世界の政治潮流を読むうえでの必読書

評者 BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎

10月初旬の国際通貨基金(IMF)世界銀行年次総会に出席して驚いた。新自由主義的政策は格差を拡大し、社会の安定を損ね、潜在成長率を低下させると、IMFが主張するのだ。自由貿易はもちろん堅持だが、新自由主義の総本山と見られていたIMFが大きな変わりようだ。背景には各国政治の不安定化がある。極右が台頭する大陸欧州では一部で中道派が政権を失った。新自由主義の2大拠点では、英国が国民投票で欧州連合離脱を決め、米国は大統領選挙でトランプ旋風が吹き荒れる。

反移民を唱えるポピュリズムの席巻は、グローバリゼーションの反動と評者はとらえていたが、本書は病根がさらに深いことを示す。民主主義そのものが自らを切り崩す要因を抱えるという。そもそも民主主義は、人民主権、自由、進歩など複数の要素から構成され、それぞれが互いをけん制し上手く機能する。20世紀終盤まで民主主義には共産主義、全体主義の敵が存在したが、それに対し勝利を収めた途端に、けん制し合っていた構成要素が暴走を始めた。多元的な民主主義を一つの要素に還元しようとすれば、行き過ぎが生じ、不安定化する。

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