相対的、絶対的両面で米国衰退論を排す
評者 東洋英和女学院 大学教授 中岡 望
戦後、何度も「米国衰退論」が議論されてきた。
1950年代にはソビエトが米国を追い抜き、世界を主導する国家となると喧伝された。80年代には日本が米国を追い越すと主張された。だが、ソビエトは自壊し、日本は長期低迷に陥った。90年代はソビエト崩壊と湾岸戦争の勝利、IT革命を背景に米国一極の世界が登場した。だが、ITバブルの崩壊、貧富の格差の拡大、国内政治の混迷、リーマン・ショック、中国の台頭で再び米国衰退論が勢いを得ている。
本書は、米国の外交政策立案に直接かかわり、「ソフト・パワー論」の展開で知られている著者が米国衰退論に挑戦したものである。
著者は「ロシア、インド、ブラジル、中国のいずれかが米国を追い越し、米国が世界のパワー・バランスの中心にいる構図を終わらせてしまうことは不可能ではないにしても、ほとんどありえない」と主張する。
著者は、この本で二つの観点から現在の米国衰退論を検討する。国際政治における米国の外交パワーの“相対的衰退”と、国内の情勢の悪化と堕落が進んでいるという“絶対的衰退”である。
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