戦時下の経済学者 牧野邦昭著
戦時中に経済学者が何を主張していたか、どんな論争を展開していたかは面白いテーマである。総力戦の下、戦争経済にただ奉仕するだけの経済学一色というほどに単純ではなかった。統制派と皇道派、革新派と自由主義派が交錯し、マルクス、ケインズ、ミーゼス、ハイエクらの理論が変形・流用される中で論争が展開された。
国民所得計算や産業連関分析も戦時下に活用され、有沢広巳、中山伊知郎、東畑精一など戦後復興に活躍する学者も頻繁に登場する(その体験が傾斜生産方式等に生かされた)。論争の主役は河上肇、大熊信行、柴田敬、山本勝市らだが、当然、政治家より軍部の影が濃い。統制強化に反対した山本が発言の機会を奪われ、東洋経済の講演会を細々活用したのは石橋湛山の引きだろう。学者でない高橋亀吉に1章を割いた着想は光るがもう一息の感。戦時がすべて特殊ではなく、平時の今日にも示唆的な論点を含んだ力作である。 (純)
中公叢書 2205円
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