高校の新しい情報科、一斉授業だけではNGな理由 元文科省・鹿野利春「"やめる勇気"も大切」
2025年度から大学入学共通テストに「情報」が入ってきます。詳細は決まっていませんが、高校が「詳細がわからないからやらない」という姿勢では、生徒が不利になってしまいます。入試で扱うとなれば保護者も黙っていないでしょうし、今後学校の対応は進むと思います。
新しい授業づくりには「やめる勇気」が必要だ
――GIGAスクール構想の現状をどうご覧になっていますか。
全国一律で1人1台の情報端末が入ったのはいいこと。ただ、ICT活用の度合いは、自治体ごとに差が出ているようです。文科省としては「クラウド・バイ・デフォルト」を原則としているのですが、そこまで到達していません。
情報端末を十分に活用できている学校も多くないと思います。でも、それは仕方ない。カメラの撮影機能など単機能から使い始めて、だんだんクラウド共有などにステップアップしていけば、しだいに自治体ごとの差は埋まっていくと思います。
そのためにも今、早急に対応しなければいけないのは、学校におけるインターネットの接続速度の改善。ここは間違いなく自治体の仕事です。
――新たな教育を受けた子どもたちが社会人になると、どのようなインパクトがあると思いますか。
プログラミングがいかに大変か、それによって何ができるかなどについて、みんながわかるようになります。だから例えば、会社でシステムの導入を検討する際に「ちょっと君、考えてよ」と社員に投げる社長が消えると思います。経営者側でコストを含めどれだけのメリットがあるのか判断できるようになり、高く売りつけられたり不当に買いたたかれたりすることもなくなるでしょう。
また、社員がシステムを使いこなすだけでなく、足りない部分は社内で作れるようになるので生産性が格段に上がります。とくに公共機関の生産性が上がり、その分サービスを充実させることもできるはずです。
しかし、すでに言われていることですが、新しい産業ができる一方、言われたことを言われたとおりにやる仕事はAIやロボットに奪われてしまう。国際競争力の観点からも、自分で何かを作れる子、何らかの価値創造ができる子でないと、かなりつらい世の中になるのかなと思います。
情報科は情報デザインやプログラミング、データ活用など、積極的に何かを作っていく教科です。子どもたちが将来苦しい思いをしないよう、情報科を通じて力をつけてあげるのはもちろん、新学習指導要領が育成を目指す「思考力・判断力・表現力」や「学びに向かう力」などを評価する仕組みづくりも併せて重要になるでしょう。
――教育現場にメッセージをお願いします。
情報科をはじめ、新しい授業づくりには、働き方改革が必要です。業務の見直しをせずに新しいことをやっても忙しくなるだけで、それは「働き方改悪」になります。
ICTを使ったり職員会議のやり方を変えたりするだけでも楽になるでしょうし、保護者のしつけと学校の指導の線引きもしたほうがいい。負担の大きい服装や頭髪の指導も米国にはないですよね。部活動も残業代が出ないなら、先生方にやるかやらないかの選択権を与えるべき。先生の異動も、地域や保護者の意向を踏まえながら、教育の継続性や発展性をある程度担保できるような配慮のある人事にしてもよいと私は思います。
とにかく働き方改革の基本は、何かをやめること。ぜひ、現場の先生方は「やめる勇気」を持って仕事を見直し、新しい授業をつくっていただきたいと思います。
(文:編集チーム 佐藤ちひろ、注記のない写真はmsv/PIXTA)
制作:東洋経済education × ICT編集チーム
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