少子化と統廃合で減る公立小「へき地教育」の斬新 小規模校をメリットに変えるICT先進事例
へき地の学びを変えたICT活用、少人数だからできることがある
北海道・積丹町教育委員会教育長の十河昌寛氏は、積丹町の合同学習とICT活用の取り組みを紹介。同町は小学校4校のうち3校が極小規模校のため、修学旅行や社会科見学、スキー合宿などを3校合同で実施してきた。加えて、15年度からは国語・算数・社会・理科の集合学習も開始。というのも、3校合わせると「一人学年」がなくなり、単式授業ができるためだ。積丹町では小規模校活性化推進事業交付金事業として45万円の予算をつけて、活性化につながる取り組みを後押しした。
さらに、教員からの希望で積丹町ではICT活用先進地域の視察を実施。視察後は教員から声が上がり、遠隔授業を始めることになった。そこで18年度の交付金で3校に2台ずつタブレットを配備。19年度には残りの1校を含むすべての小学校に3台ずつタブレットを用意し、2校または3校、4校で遠隔授業を始めた。遠隔であっても他校の児童と一緒に学ぶことで多様な意見に触れることができ、対話的な学びや多面的な思考を育む効果があるという。
「小規模校のメリットは、遠隔でも一人ひとりの生徒の表情がよく見えること。また、日頃から他校の先生や児童と関わっているため、自然に交流しています。集合学習の下地があったからこそ、遠隔授業もスムーズにできたと思います」(十河氏)
ただし、対面と遠隔の使い分けは必要だと十河氏は指摘する。また、北海道では極小規模校の教員が3〜4年で異動になることも多いため、特定の教員に頼り切ってしまうと取り組みが途絶える可能性があると指摘した。
現在は、北海道教育大学の学生が週1回1時間程度、タブレット越しに小学生の放課後学習を担当するなど、ICT活用も進みつつある。十河氏は「今後も優れた地域の取り組みを参考に進めていきたい」と話した。
へき地教育の未来を支える学生とICT
北海道教育大学札幌校准教授の前田賢次氏が話したのは、教育学部の学生の学びにおけるICTの活用だ。約半数の学校がへき地・小規模校となっている北海道。そのため北海道教育大学では2年生・4年生を対象とした「へき地校体験実習」を実施しているという。しかし、コロナ禍では、学生の実習を受け入れてもらうのが難しい面もあったようだ。
「それでも、地域によっては実習生のワクチン接種やPCR検査まで手配してくださるなど、温かく受け入れてもらい、実施できました」
この実習の参加要件となっている授業では例年、複式指導案を作成している。コロナ禍の今年は、学生たちが会議ツールを使って遠隔合同模擬授業を体験したという。
「学生たちも、当初は『単式でも難しいのに複式の模擬授業を遠隔でやるのは難しい』と思っていたようです。ところが、実際にやってみるとさまざまなICT活用の意見が学生から挙がってきました」(前田氏)
極小規模校で始まりつつある遠隔合同授業を模擬授業で経験したことで、学生たちはICTの可能性と不可能などの両方に気づいたという。今年はへき地体験実習の報告会もZoomで行われ、実習先の教員も参加するなど、大学教育におけるICT活用の可能性についても前田氏は示唆した。
このように小規模校や複式学級のポジティブな面を引き出しながら、課題解決する可能性を秘めているICTの利活用。その取り組みやノウハウの蓄積は、今後さらに少子化が進むにつれて、ますます求められていくことだろう。
(文:吉田渓、注記のない写真:iStock)
制作:東洋経済education × ICT編集チーム
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら