「治療費タダ」の英国医療を担う診療ナースの正体 不足する医師の代わりに患者を診て、薬を処方

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ただその一方で、看護師が派遣看護師のための派遣会社やリクルート会社を立ち上げるケースは多い。それは、派遣看護師であっても必須研修が複数義務付けられているためで、法的分野を熟知している看護師には向いている。

民間企業のセールス、教育分野で活躍する看護師もいる。こうした看護師は、傷を治療する際に使うドレッシング材や排泄ケア材など、看護師がメインで扱うことの多い医療用品の企業に、教育サービスを提供している。企業は合同展示会でこうした看護師を招き、「褥瘡(床ずれ)の最新ケア」や「導尿カテーテルの管理方法」などの勉強会を開く。そして、「ターゲットとなる看護師集め」にいそしむ。というのも、これらの医療用品の選択、購買決定権は病院では看護師サイドにあるからだ。

企業に雇われる看護師も多いが、専門看護師やナースプラクティショナーの肩書があれば、フリーランスとして仕事をすることも可能だ。ただ、こうしたケースはほんの一部。多くの看護師は、NHSを辞めて独立したがったりはしない。

イギリスの看護師の手取りは約450万円

その理由は冒頭でも書いたが、イギリスの看護師は低賃金だが安定した収入があり、また、専門看護師やナースプラクティショナーになれば、それなりに収入は上がる。上級専門看護師の3~5年目の年収は4万2121ポンド、日本円で手取り換算すると約441万円となる(1ポンド=151.22円)。

ボーナスや交通費、住宅手当などの支給は出ないが、ロンドン勤務だと大都市手当が加算される。加えて、専門看護師に夜勤は基本的にないので、身体的な負担も軽い。

ほかにも、NHS勤務のメリットとして、給与以外の福利厚生が挙げられる。有給日数は新卒から28日で、勤続年数10年を超えると33日になる。年金は勤務先の病院にもよるが、9%を超えるところも多い。病気で療養中も基本的に100%の給与が支払われる。この待遇は国内でもかなり恵まれている。そのため、安定性を捨てる看護師は実際に少なく、仕事をするにしても副業形態を選ぶケースが多いのだ。

ピネガー 由紀 イギリス正看護師、フリーランス医療通訳

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Yuki Pineger

日本での看護師免許や勉強経験はなくイギリス義務教育(GCSE)、高等教育A-levelを経てマンチェスター大学看護学部卒業。現在は、イギリス中部に在住してNHSの大学病院に勤務。通常は外科部門に所属して手術前後の患者看護に当たる傍ら、学生指導も担当している(2020年4月から新型コロナ感染病棟に期間未定で異動中)。

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