リニア、工事実施計画を申請、いよいよ着工へ 新幹線50周年とほぼ重なるタイミング

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環境影響評価書補正版、工事実施計画について発表する、JR東海の金子副社長

労務費は、ここ2年で2割以上高騰した状況などを反映したもの。一方、新たな技術については、リニア車両で使用する照明や空調等の電力を誘導集電で賄う方式を指す。これは、リニア車両は地上から浮上した状態で走行しているため、一般の鉄道車両のようにパンタグラフを通じて電気を取り込むことができないからだ。当初は車両内にガスタービン発電機を搭載することで賄おうとしていたが、電気誘導作用を応用した、電線等に頼らないで電気を通す技術が確立。このシステムをリニア車両に採用することに決めた。約2000億円の費用増につながるというが、火災リスクや排気ガス発生の低減につながるだけでなく、「トンネル内での安全性の確保や排気施設の簡素化などトータルでのメリットは多い」とJR東海は説明する。

総額が5年前から金額が上昇したことについては、「経営状況は堅調に推移している。増額分のコストを飲みこんで工事は完遂できると考えている」(金子副社長)と回答。当時の想定以上に業績は上振れており、この数字であれば安定経営、安定配当を維持しながら、工事を進めていくことは可能、とJR東海は踏んでいる。

今後は国土交通相による工事認可申請の”承認”が焦点となる。承認することはほぼ間違いないと見られており、環境影響報告書の縦覧が終了する1カ月後にも、認可が得られるのではないかという見方もある。ちょうどそのタイミングは、10月1日の新幹線50周年と重なる時期。「新旧高速鉄道のバトンタッチ」という、メモリアル的な形になるかもしれない。

測量や用地買収はこれから

しかし、JR東海が乗り越えるリニア建設のハードルは、これから用意されている。工事実施の認可が下りて、初めて測量や用地買収、建設事業者の選定などが始まる。リニア建設予定地付近に住む、住民との交渉や協議もこれからだ。JR東海も、「認可後、事業説明会や工事説明会を開催し、安全対策や環境保全措置の内容について具体的に説明し、住民の方々の理解を深めていきながら、事業を進めていく」と繰り返す。

工事の過程で予期せぬ難航の事態が発生したり、金利上昇などコスト高騰につながる経済情勢の急変があったりするかもしれない。2027年の開業に向けて、いよいよスタート地点に立つJR東海。日本の高速鉄道の歴史だけでなく、日本経済にとっても大きな変革を及ぼす巨大プロジェクトが始まろうとしている。

宇都宮 徹 東洋経済 記者

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うつのみや とおる / Toru Utsunomiya

週刊東洋経済編集長補佐。1974年生まれ。1996年専修大学経済学部卒業。『会社四季報未上場版』編集部、決算短信の担当を経て『週刊東洋経済』編集部に。連載の編集担当から大学、マクロ経済、年末年始合併号(大予測号)などの特集を担当。記者としても農薬・肥料、鉄道、工作機械、人材業界などを担当する。会社四季報プロ500副編集長、就職四季報プラスワン編集長、週刊東洋経済副編集長などを経て、2023年4月から現職。

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