韓国で急増する「宅配過労死」その悲惨な現状 政府の保護から外された苛烈な通販現場

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韓国では真夜中にフルーツやボトル入りの水、クリスマスの飾りといった商品を配達しながら、疲労困憊(こんぱい)した様子で集合住宅の中を通り抜けていく配達員の姿が当たり前の光景になっている。多くの買い物客が宅配を希望するようになったためだ。住民の中には感染を恐れて配達員とエレベーターで一緒になることを拒む者もいるため、配達員は重い荷物を手に持って階段を上がらなければならなくなることも少なくない。

コロナ禍は物流大手のCJ大韓通運、韓進海運やロッテの宅配事業などに利益をもたらした。しかし、韓国に5万4000人ほどいるとみられる配達ドライバーの大半は自営業者に分類され、フルタイムの会社員を保護する労働法の恩恵は受けられない。時間外労働手当、有給休暇、仕事中のケガに適用される労災保険などは、ほとんど存在しない。

人権団体の労働安全衛生センターが9月に行った調査によれば、配達員は平均して1日12時間、1週間に6日働いている。議員らに示された政府のデータによると、仕事に関連したケガの件数は配達員の間では今年前半の半年間で43%増えた。

代役を自腹で雇わなければ休めない

アメリカ、ヨーロッパ、中国の配達員は待遇改善を求めてストライキを行っている。一方、韓国の配達員がストで求めているのは、労働時間の短縮と夜に休める生活だ。

「誰も私たちの声に耳を傾けてくれないから、団結して抵抗することにした」と2016年から配達員をしているパク・キリャンさん(36)は話す。「私たちだって、お客さんみたいに暖かい家の中にいたい。だけど、自分たちはあまりいい教育も受けていないし、仕事を始めたときには返さなくちゃならない借金もあった。この仕事を辞めても、別の仕事は見つからない」とパクさん。

 物流企業の中には、相次ぐ配達員の死について陳謝し、定期健康診断の提供のほか、労働時間短縮や増加する仕事量に対処するため段階的に人員を増やすといった対策を約束するところも出てきた。

一方の政府は週5日労働の導入と夜間配達の禁止を公約。宅配業界の成長ペースに政策対応が追いつかず、「その重荷が長時間労働や大変な仕事量となって配達員に押しつけられていた」ことを認めた。

配達員の連続過労死がメディアで大きく取り上げられるようになると、人々は同情を示し、ドアの前に飲み物や軽食を置いて、こんなメモを添えるようになった。「(配達は)遅れても大丈夫」。

だが、物流企業や政府の改革はあまりにも遅れている。

パクさんは11月に祖母を亡くしたが、死を悼むために半日の休みを捻出するにも、自腹で代わりの配達員を雇わなければならなかったという。「改革を望んでいる」とパクさんは訴える。「私たちは働く機械ではない」。

(執筆:Choe Sang-Hun記者)

(C) 2020 The New York Times News Services 

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