信託銀行の議決権“集計外し"に欠如した視点

会社法に詳しい東京大学の田中亘教授に聞く

株主名簿管理人による議決権数の不適切な扱いは専門家を驚かせた。写真はイメージ(編集部撮影)
今年9月、上場企業の株主名簿管理人である信託銀行が、株主総会で数えるべき一部議決権を集計していなかったという前代未聞の事態が明らかになった。
問題発覚の直後こそ大きく報じられたものの、早々にトーンダウンした。だが、今回の問題を単に信託銀行の事務処理ミスと片付けていいのか。会社法に詳しい東京大学の田中亘教授に聞いた。

信託銀行の取り扱いに衝撃を受けた

――株主総会前日に配達された議決権行使書で、実際には届いているにもかかわらず、翌日扱いとして集計から外すことが20年近く続いていました。今回の事態をどう見ていますか。

信託銀行がああいった取り扱いをしていたことは知らず、衝撃を受けた。

会社法上、投票期限は会社が決定して、招集通知に記載すればよい。投票期間は招集通知の発送から2週間あればよく、集計が間に合わないのであれば、株主総会前日よりも前に(議決権行使の)期限を設定できる。

しかし、招集通知に株主総会前日が期限と記載している以上、前日に届いた議決権行使書はカウントしなければいけない。

――三井住友信託とみずほ信託は、調査した過去3カ月の株主総会に関して「賛否には影響がなかった」と強調しています。

たなか・わたる/1996年東京大学法学部卒業、同大学院法学政治学研究科助手。1999年成蹊大学法学部専任講師、2002年同助教授。2007年同准教授、東京大学社会科学研究科准教授を経て2015年4月より教授。『会社法』(東京大学出版会)、『企業買収と防衛策』(商事法務)など著書多数(編集部撮影)

結果に影響がなかったから問題ない、ということではない。株主総会決議の方法に法令違反があれば、決議が取り消されるというのが原則だ。

今回のカウントミスは法令違反なので、これ自体が(決議の)取消事由にはなる。ただし、法令違反であっても瑕疵が重大ではなく、決議結果に影響がなければ、裁判所が裁量で棄却する可能性が高い。

――重大な瑕疵とは、具体的にはどういうケースですか。

株主総会の当日に、決議に「反対」を表明している株主の出席を意図的に拒否したようなケースがあれば、(決議が)取り消される可能性が高い。このような場合、事前に行使された議決権だけで全議決権の過半数の賛成が集まっていて、決議が可決されることが総会前までに確定していたとしても取り消されるだろう。

正当な理由が何もないのに株主を排除していれば、たとえ結果に影響を及ぼす可能性がゼロだったとしても、決議の効力は否定されるというのが原則になる。法律は結果に影響がなければよいという考え方には立っていない。

本記事の全文版はこちら。『東洋経済プラス』ではこのほかにも「株主総会の不都合な真実」として、各分野の専門家のインタビューを含む連載を配信しています。

総論/株主軽視の総会は通用しない

マネックスグループ・松本大社長
「総会は穏便に滞りなく。経営者の腰が引けている」

フィディリティ投信・三瓶裕喜ヘッド・オブ・エンゲージメント
「日本の総会は“締め出し型”の発想が残っている」

弁護士・中島茂
「100株を軽んじる会社は100株に泣く」
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