子連れキャンプの危うい一瞬、暗闇捜索の悪夢 山岳救助のプロが解説する山の意外な落とし穴

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小学校高学年の男児が父親と縦走中、父親が約100m滑落。手足などを骨折した父は、身動きがとれなくなった。男児は何とか父親のもとにたどり着き、携帯電話を受け取って電波の通じる場所まで約100m移動し110番通報した――。これは実際に長野県内の山で起こった遭難事例だ。

「親自身が遭難することを想定せずにグレードの高い山を選んでしまった。子どもの技量や行動力が高かったために助かったが、子どもが動けなかったり、救助要請できなかったりした場合は親子とも生命の危機にさらされていた」。長野県警山岳遭難救助隊の櫛引知弘隊長はこう説明する。

このケースは男児の110番通報によって救助隊がヘリで現場に急行したが、悪天候のためヘリでの救助が困難だった。隊員3人が降下してその日は安全な場所まで移動しビバークし、翌朝ヘリで救助した。

有名な山より、低い山や里山のほうが難易度が高い

櫛引隊長は「最も大事なことは、トレッキングや登山は冒険要素の高いスポーツだということを認識してほしい」と強調する。登山はトラブルも含めて自己責任、自己完結することが原則だ。入念な準備や計画がなければ、標高が低い山であっても子どもを危険にさらしてしまう可能性が高い。

低い山や里山など登山者が少ないルートは、危険な場所に鎖やロープが取り付けられていないなど整備が行き届いていない場所も多い。有名な山よりもかえって難易度が高い場合もある。

子どもとの登山の基本は、最初から最後まで一緒に行動することが大原則。とはいえ、迷ったときを想定して子どもには何を教えたらいいだろうか。櫛引隊長は4つのポイントを挙げる。

  1. (1) 助けがくるまで動かない
  2. (2) 近くに風雨をしのげる場所を探す
  3. (3) 着られるものはすべて着て、保温と体力を温存する
  4. (4) 食料や水は少しずつ大事にとる。明るいうちはホイッスルを定期的に吹く

万が一、子どもの姿が見えなくなった時に大人がとるべき行動も聞いた。道迷いは初動対応が極めて重要だ。救助要請は早いほうが発見率は高い。迷った子どもが動き、さらに迷いこむリスクを低減できるためだ。落ち着いて110番、119番通報して救助を要請する。

電話が通じない場合は他の登山者に救助要請を依頼する。グループでの登山など子どもが複数人いる場合は、引率者を決めて他の子どもは下山させる。

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