生徒の国際学習到達度調査でトップクラスのエストニアを分析 「エストニアの奇跡」から日本が学ぶべきこと
そのエストニアがPISAで欧州でトップ、世界でも上位の成績を取ったことで、デジタル教科書・教材、学校のデジタル化の学力向上効果を実証するものと世界で注目を浴びています。私は、これを『エストニアの奇跡』と呼んでいます」(二宮氏)
昨年、日本でも遅ればせながら、学習者用デジタル教科書の導入が制度化された。だが、それは紙の教科書をそのまま電子化したもので、あくまで紙の教科書を主たる教材として、必要に応じてデジタル教科書を併用することができるようになっただけだ。
実際、デジタル教科書は、いまだにその良しあしが議論されており、費用などの関係もあってなかなか普及が進まない。そもそも1人に1台の端末が整備されている必要がある。人口がわずか約130万人の小国とはいえ、エストニアのようなデジタル化の恩恵を存分に受けている国を見ると、確かに今の日本は心もとないと言わざるをえない。
「エストニアをはじめデンマークや英国、米国におけるデジタル教科書・教材開発、またデジタル教科書も検定の対象とする韓国の例は、日本の参考になるでしょう。またフィンランドでは、とりわけデジタル教科書・教材こそがコンピテンシー育成に効果的といわれています。これからの教育はデジタル化、その先のAI活用なしには語れません。日本にも思い切った判断が必要ではないでしょうか」(二宮氏)
今回取り上げた「海外教科書制度調査研究報告書」は、43カ国・地域の教科書制度やデジタル教科書、STEAM教育※のための教科書・教材、また英語教科書などについて調査した報告書だ。従来の教科書制度の比較といえば、欧米の先進国やアジアの主要国、あるいは必要に応じてスウェーデンやフィンランドについて研究されることが多かった。だが、本報告書は中東や中南米、アフリカ諸国も含めて、広く世界の最新情報を同じ条件で収集したという点が画期的といえる。
この報告書を現場の教員、教育関係者は、どう活用すればいいのか。
「してはいけないことは、あの国のここがいいからやってみようということ。つまりある国の制度の一片を切り取るという態度はよくありません。世界全体を見ながら、いろいろな国がさまざまなことをやっている中で、歴史や文化、あるいは政治・経済事情などの背景を理解したうえで、日本の位置づけを知って、どう改善すればいいかを考えてほしい。世界の教育事情を知り、固定観念にとらわれず、将来を想像しながら、子どものコンピテンシーを伸ばす先生になってほしいですね」(二宮氏)
グローバル化が世界の教育のあり方を変えたが、デジタル化は、その姿を一変させるだろう。子どもたちをどう育てたいのか。日本の教育においても、前例にとらわれない決断が必要になるかもしれない。
※Science(科学)、 Technology(技術)、 Engineering(工学)、Arts(デザイン、感性等)、Mathematics(数学)の各教科での学習を実社会での課題解決に生かしていくための教科横断的な教育
(注記のない写真はi-stock)
制作:東洋経済education × ICTコンテンツチーム
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