生徒の国際学習到達度調査でトップクラスのエストニアを分析 「エストニアの奇跡」から日本が学ぶべきこと
自由発行、自由採択制度では、教科書使用義務を課すことはないため、教科書を使用しない授業があってもおかしくはありません。しかし、調査によれば米国など多くの国では実際の教科書依存は80〜90%ともいわれ、その意味ではいずれの国でも教科書の利用率は高いと考えられます」
かつては、日本でいう学習指導要領のような教育課程を編成する際の基準がない国が多かったという。だが1980年代後半から、グローバル化の進展により、国際競争力を維持していくうえでの教育の重要性に注目が高まり、国家教育課程基準(ナショナルカリキュラム)を定める国が増えた。「海外教科書制度調査研究報告書」によると、国家教育課程基準を定めてないのは、今やオランダとデンマークのみだ。
「ここから、世界の教科書の状況がガラッと変わった」と二宮氏は話す。政府が国家教育課程基準にそぐわない教科書にお金を出さないとなれば、採択の過程で選ばれる基準に合った教科書がつくられるし、学校や教師も採択された教科書の中から最適なものを選ぶようになる。自由発行の国であっても、基準を定めたり、採択で網をかけることで、国が国際競争力の向上に重要な教育に積極的に関わっていこうという姿勢が現れ始めたのだ。
世界トップクラスに躍り出た「エストニアの奇跡」
この流れに拍車をかけたのが、OECDのキー・コンピテンシー育成論とPISA(Programme for International Student Assessment OECD生徒の国際学習到達度調査)である。
「キー・コンピテンシー育成論とは、簡単に言うと、どれだけ学んだかという知識の量を重視するのではなく、どんな力を獲得したのか、つまり何ができるのかを重視して育成しようということ。創造力や協調性、対話力、リーダーシップなど、キー・コンピテンシーを構造化して定義しています。
このキー・コンピテンシーを真っ先にカリキュラムに取り入れたのはニュージーランドですが、以来20年にわたって世界の教育はコンピテンシー論一色になっています。もちろん教科書も、知識ではなくコンピテンシーを重視、育成する教科書の模索が始まっています。そして教科書にとっては、PISAが実施された2000年も重要な年といえます」(二宮氏)
PISAとは、OECDが79カ国の15歳を対象に読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの能力について、00年から3年置きに行っている生徒の国際学習到達度調査だ。日本はいずれも上位に位置しているものの、順位が上がったり、下がったりするたびに話題になり、世界の国々もその結果に一喜一憂している。00年にフィンランドがPISAで世界一となり、フィンランドへの注目が一気に高まったことを覚えている人も多いだろう。
そのPISAで最近話題になっている国が、エストニアだ。18年のPISAで、エストニアが読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの成績で世界トップクラスに躍り出たのである。

「フィンランドが世界一になったとき、その理由は教員養成など教員の力量にあるとされました。シンガポールのように毎回上位に位置しながらも、必ずしも明確に何に起因するのかわからない国もありますが、エストニアが世界トップクラスとなった理由は、国を挙げてのデジタル化にあるとされています。
電子国家として注目を集めるエストニアは、教育においても00年までに1人1台コンピューター体制を整備し、先生はもちろん国民全体のデジタルリテラシーの向上に努めてきました。11年には早くもデジタル教科書を導入し、『学校はクラウドの中にある』と言っています。