その人物は、「はすみ」に「ビジネスホテルのようなものがある、近くの駅まで車で送る」と持ちかける。近くの駅とは、新浜松駅から遠く離れた比奈駅(比奈駅は遠州鉄道ではなく、岳南電車岳南線に実在する駅だが、駅周辺にビジネスホテルは存在しないようだ)だと言う。そしてその人物は、車に乗った「はすみ」を山の方に連れて行くが、運転中次第に無口になり、全然話さなくなった後で、訳のわからない独り言をつぶやき始める。
「はすみ」は、携帯電話のバッテリーが切れかけていることを書き込み、「隙を見て逃げようと思っている」という書き込んだ後で、消息を絶った。7年も経った2011年になって「はすみ」は「生存報告」を書いているが、それが本人かはわからない。
パラレルワールドに飛んだ?
乗り物ライターとしては、きさらぎ駅は最初から不思議な話と感じる。「いつも通勤に使っている」という話だが、遠州鉄道は駅間距離が短いので、新浜松駅を出た電車は5分や7~8分どころか、1分で第一通り駅に停車する。そして「はすみ」は西鹿島行きしか出ていない新浜松駅で「乗り間違えたかも」とも言っているが、全列車各駅停車で乗り間違えるわけがない。「はすみ」の体験が事実なのだとすれば、パラレルワールドか、最初から時空が歪んでいたのだろう。そもそも「はすみ」は23時40分発の電車に乗ったと言うのだが、最初の「電車が20分止まらない」書き込みの時刻が23時23分である。
さておき、きさらぎ駅はネット上で大いに盛り上がった。「きさらぎ駅に着いた」という書き込みや、類似した架空駅の投稿が相次ぐようになり、夏の風物詩と化した。静岡新聞の記事によると、遠州鉄道本社にも問い合わせが寄せられるようになったという。
きさらぎ駅は創作物にも度々登場する。漫画では2014年の『はじまりの夜行列車』(著者:KirororO/スクウェア・エニックス)や、2018年の『ルーモア・ヒューモア』(著者:さいとう林子/祥伝社)、『となりの妖怪さん』2巻(著者:noho/イーストプレス)で取り上げられている。小説では角川つばさ文庫の『恐怖コレクター』巻ノ十一(著者:佐東みどり、鶴田法男)や『裏世界ピクニック』(著者:宮澤伊織/早川書房)1・2巻に登場する。
海外でも台湾のホラー作家・笭菁が『如月車站』(日本語に訳せばきさらぎ駅)という小説を発表した。香港のまんが家・鄭健和によりコミカライズされるなど、きさらぎ駅は海外でも話題である。
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