産経・フジ「世論調査不正」が投げかけたもの

マスコミ電話世論調査は本当に信頼できるか

しかし、現代における世論調査が持つ問題点は、その技術的側面もさることながら、メディアの対応にも問題があるように思う。

電話調査が急速に普及した理由は、回答率の低下という問題のほかに、その簡便さがある。全国を対象とする面接調査は、質問・回答用紙の作成や印刷に始まり、多くの調査員の募集や教育など膨大な手間と時間がかかる。費用は億単位にのぼる。

これに対して電話調査は、準備は簡単で時間がかからないうえ、コストも格段に少なくて済む。何か大きな問題があったときに、臨機応変に新聞紙面を飾る材料を作るための調査が実施できる。

重視される世論調査の速報性

ただし、電話を使っての調査ゆえに、複雑な問題などについてじっくりと考えてもらって回答を得ることは難しい。質問数にも内容にも限界があるのだ。

また一定の回答数を集めなければならない。回答者の中には「政治のことはわからない」という人もいる。すると、「そういう人の声も含めて世論ですから、わからないというのも立派な答えです」と意味不明の言葉で回答を促しているという。一部の専門家が厳しく指摘しているように、こうなると世論調査とは言いにくくなり、世論の名を借りた「反応調査」、あるいは「感情調査」でしかない。

鳩山由紀夫首相が退陣して菅直人氏が後継首相になり、政治が大きく揺れた2010年。主要な新聞、テレビ局が実施した世論調査は年間230回を超えた。そこまでではないだろうが、近年は以前に比べると世論調査の頻度は増えている。そこで重視されているのが世論調査の速報性だ。

「Go Toトラベル」事業をめぐって東京を除外して始めるなど政府の対応が右往左往すると、一部の新聞は即日、電話による世論調査を実施した。組閣や内閣改造で新閣僚が就任の記者会見をやっている最中に世論調査をスタートさせることも今では当たり前となっている。

世論調査というのは各メディアが自主的に行う調査であり、その記事は一般的なニュースとは本質的に異なる性格のものである。にもかかわらず、一般のニュースと同じように速報性を競うのはなぜなのか。その結果、回答者の感情や反応が集積された数字が独り歩きし、政治の世界に影響を与えることもある。中には社説の主張の根拠に使っているケースもみられる。

電話調査による結果が有権者全体の縮図となっていることが構造的に疑わしいにもかかわらず、世論調査結果の数字があたかも「民意」であるかのように扱う昨今の風潮は、残念ながらマスコミ自身が作り上げたものである。

一方で産経新聞とFNNの起こした世論調査の不正問題が示すように、世論調査には構造問題が存在している。感情や反応を集めただけの数字が政治や社会に過剰な影響を与えることのないよう、マスコミや世論調査の意味について見直すべきであろう。

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