アメとムチを使い分ける、中国人民銀行 金利低下と人民元安をどう見ればいいのか
[上海 28日 ロイター] -中国人民銀行(中央銀行)は先週、投資家に二つの大きな驚きを与えた。人民元相場を対ドルで大幅安に誘導し、同時に短期金融市場に対する引き締め姿勢を和らげて短期金利を一定に維持したのだ。
実際、人民銀は外国為替市場においては悪い警官を演じ、元高を見込んで一方的に元の投機買いが殺到するのを防いだ。一方で短期金融トレーダーたちには愛想よくふるまった。
昨年12月とことし1月には短期金利が急騰して中国の短期金融市場が大きな痛みを被り、中国のみならず世界の投資家を揺るがした。その際に中国当局は市場が発する悲鳴に耳を傾けようとはしなかったように思える。しかし、今回は当時から著しい態度の変化が見られる。
上海にある中国の商業銀行のトレーダーは「人民銀は突然、驚くほど市場の鎮静化に積極的になり、短期金融市場の心理が大幅に改善した」と話す。ただ、このトレーダはこうした新たな環境がどこまで持続するかについては懐疑的だ。
人民銀が取った対応は異例のものだった。トレーダーたちは、当局が金利低下を防止するための市場介入により、市場に流入する余剰の元資金を一掃すると予想していたからだ。人民銀行は実際に元資金を吸収したが、市場が予想したほどの量ではなかった。
中銀が実際に何を達成したいのかをめぐり、トレーダーとアナリストの意見は分かれている。
短期金利の押し下げは、一方的な元高を予想するホットマネーの流入を抑止することを狙ったものだという議論が一部から出ている。
一方、昨年からの信用環境がひっ迫した緊張状態の下で、疲労感が漂う株式と不動産市場に安心感を与えることを意図したものだとの見方もある。それによって来週の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の開催期間中にセンチメントが改善するからだ。
しかし、金融緩和によって、リスクの高いシャドーバンキング(影の銀行)に対する圧力を維持して債務比率の高い中国企業の債務削減を促す人民銀行の対応は複雑化する。
バークレイズ(香港)のエコノミスト、ジャン・チャン氏は「人民銀は経済成長の急減速と金融危機を回避する一方で、信用バブルをコントロールし、経済のレバレッジ解消を進める上で難しい課題を背負った」と先月28日の調査ノートで指摘した。
新たなノーマル
人民銀は説明の上では経済成長のために適切な流動性を維持すると約束しているが、実際には時に応じて言葉通りでない対策を実施してきた。
昨年6月と12月、さらにことし1月に金融市場が劇的な資金ひっ迫に見舞われた際、人民銀は圧力緩和に向けた行動を取らずに、むしろ流動性は「十分にある」と言い張った。
しかし、人民銀は26日に金融政策を変更する方針がないと発表。中でも株式市場の流動性供給について懸念すべきではないと強調した。
トレーダーは通常、こうした発言を割り引いて受け止める。株式市場を活気づけようとする発言の場合は特にその傾向が強く、実際に中銀がどんな行動を取るかに注目する。今回の場合、中銀は口だけでなく実際に銀行に資金を供給し、金利低下を促した。
中国のリアルタイムの流動性状況を示す指標として最も信頼性が高いと考えられている7日物のレポ金利は先月26日の人民銀行の発表以前からすでに低下傾向にあった。21日には一時1.6%と2010年末以来の低水準をつけていた。
人民銀が金利を現在の高水準に維持したいのだと信じている市場参加者は人民銀が公開市場操作を通じて市場の資金を吸収し尽くすと予想していた。事実、人民銀は1600億元(26億ドル)の資金吸収を実施したが、予想を大幅に下回る量だった。
昨年の比較対象可能な1週間で、人民銀は金融システムから3510億元を吸収したことがある。
協調戦略か
一部のトレーダーは人民銀は5日に開幕する全人代を前に中銀が金利の低下を容認しているだけだとみている。それによって流動性主導の株式相場の上昇を演出し、一大イベントに楽観的な雰囲気を演出することを期待しているのだという。
それでも、他方で弱めの景気指標が相次いだ場合、当局が短期金融市場への圧力を維持する意欲を失うかどうか、半信半疑の人たちもいる。
人民銀のデータが示すところでは、人民銀は為替介入による短期金融市場への影響を隔離することにおおむね成功している。このことは金利低下は意図的なもので、為替介入による予期せぬ副作用ではないとの主張を裏付けている。
バンクオブ・アメリカ・メリルリンチのエコノミスト、ルー・ティン氏は、今回の金利低下と人民元安は、人民銀が2013年半ばに始めた金利引き上げキャンペーンによって生じた政策上の難題を解決しようとしていることを示したとみている。
金利上昇はホットマネーを呼び寄せ、このことが人民元にとって上昇圧力となり、さらにホットマネーの流入は増加する。
ティン氏は「人民銀は昨年後半以来のこうしたジレンマを解消するために途方もない圧力を受けており、絶えず他の政府機関の協力を要請していた」と記し、ようやく協力が得られるようになったと主張した。
その上でティン氏は「だからといって昨年後半の金利上昇を単純に人民銀の引き締めによるものとは呼ばない。同様に今回の対応も単純に金融緩和と呼ぶつもりはない」と指摘した。
(Pete Sweeney and Lu Jianxin記者)
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