NHKで話題、「荒川決壊」が鉄道に与える深刻度 台風19号でも地下鉄銀座線は動いたが・・・

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0.5m以上の浸水深となる地下駅は、約50駅にのぼる。0.5mを超えると、駅出入口へ止水板で防御した程度では、地下駅への浸水を防げない。地下駅へと水が勢いよく侵入したら、大変な災害となるのは明らかだ。

また、東京メトロだけでも、荒川洪水や高潮の浸水想定エリアに6カ所の車両基地がある(日比谷線南千住、銀座線上野、東西線東陽町、千代田線北綾瀬、南北線王子神谷、東武伊勢崎線竹ノ塚の各駅近く)。

荒川の洪水で地下駅などへ水が流れ込まないように、駅出入口への止水板や密閉型防水扉、地上から地下へ線路が続く部分の坑口防水ゲートが設置されている。また地上にある換気口には浸水防止機が付けられている。想定される最大規模の洪水に対し、さらなる対策が進められている(東京メトロの例では2027年度完了予定)のが現状である。

地下駅に水没リスク

荒川の堤防は、いまだに弱い箇所がある。例えば、2019年10月18日付記事(地形でわかる、二子玉川駅付近が浸水した理由)でふれた京成本線・京成関屋―堀切菖蒲園間の荒川橋梁地点では、地盤沈下の影響で線路が横切る部分だけ堤防が約3.7m低い。台風19号では、この地点、筆者の目測では越流まで約3mまで迫っていた。

現在かさ上げ工事中の東北本線・京浜東北線荒川橋梁(赤羽―川口間)も同様に線路部分だけ数メートル堤防が低い。この点はとても重要なので、繰り返し強調しておきたい。もしこれらの地点で堤防が決壊したら、先ほど挙げた地下駅の多くが水没の危機となる。

荒川下流部の東京都・埼玉県関係16市区を対象として自治体、鉄道事業者、ライフライン事業者による「荒川下流タイムライン(事前防災行動計画)」が設けられている。それには、車両の避難という項目もある。

東京メトロでは台風19号襲来で対策本部を設置し、荒川下流河川事務所と連絡をとりながら、その水位の変化を刻々と注視していた。あと少し水位が上昇したら、車両を浸水想定エリアの外へ動かす必要があっただろう。

今回の長野車両基地の例に限らず、早めに車両を避難させるとすると、計画運休の時間帯も早くなる。避難させたがさほど雨が降らずに空振りといったことも、今後あるかもしれない。車両を避難させれば台風が去っても平常運転に戻るのに時間がかかる。だがそうした計画運休は必要性も高く、社会的理解の浸透が不可欠である。

台風19号での地下鉄の例のように、意外な所にリスクがあり、その備えと理解が必要なことを知っておきたい。

内田 宗治 フリーライター、地形散歩ライター

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うちだ むねはる / Muneharu Uchida

主な著書に、『地形と歴史で読み解く 鉄道と街道の深い関係 東京周辺』(実業之日本社)、『外国人が見た日本 「誤解」と「再発見」の観光150年史』(中公新書)、『関東大震災と鉄道』(新潮社)など多数。外国人の日本旅行、地震・津波・洪水と鉄道防災のジャンルでも活動中。

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