赤字のソフトバンクが宿す「WeWork」3つの懸念 孫社長の「誤差発言」多用がどうも気になる

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さらに、ホテルやオフィスなど商業用不動産へ行った融資などをまとめて証券化した金融商品のCMBS(商業用不動産担保証券)に関わる問題もあります。

不動産担保証券データベース会社Trepp社は、WeWorkが関わる不動産契約に付随して33億ドル以上のCMBSが発行されているとし、WeWorkがCMBSの裏付けとして抱えたローンが全CMBS市場の1%を占めるまで近づき、そのエクスポージャーは1社関連のものという視点からは看過できないレベルにあると述べています。

「誤差」が招いた一連の「問題」

孫社長は、本年度の株主総会において、「日本に欠けているのはビッグビジョンだ」と熱く語りました。私自身も日本のビッグビジョンを背負い日本の活路を切り拓いている最有力経営者が孫社長であると確信しています。

そして、やはり指摘しておきたいのは、孫会長はこれまで大きな局面において有言実行してきたということ。もちろんすべてではありませんが、根源的分岐点となるような大きな勝負どころでは「大ぼら吹き」であることを武器にするかのように有言実現してきています。

今回の「問題」についても、「WeWork問題」について限って見れば、2年単位くらいで「不動産企業としてのWeWork」の企業再建を実現してくるのではないかと予想されます。

その一方で、孫社長は最近、「誤差」という言葉を非常によく使うようになってきています。10兆円ファンドをつくって投資を行い、さらに10兆円ファンド第2弾の組成も始めたからなのか、1兆円未満はみんな誤差だと言わんばかりです。2019年2月に開かれたソフトバンクグループの決算説明会で、「純有利子負債は4兆円」としたうえで、厳密には純有利子負債額は3.6兆円だが、「4000億、5000億円は誤差だ」と言っています。

同じように、日本でライドシェアが認められていないのも「誤差である」と発言しています。投資先であるウーバー・テクノロジーズがグローバルでライドシェア事業の覇権を握っているなかで、参入障壁も高くマーケットも縮小している日本で同事業ができないことは「誤差」にすぎないということを意味しています。

これまで、ブロードバンド「Yahoo!BB」のサービス開始時には自らNTTに乗り込んで交渉を行い、ボーダフォン日本法人を2兆円で買収した後は、自ら現場に入って陣頭指揮をとりました。アメリカ・スプリント買収後も、ネットワークオフィサーとして四六時中、電話会議を行いました。

孫社長は現場を大事にし、現場の細かいことまで理解し、細かいところまで心配して行動する能力をもっています。ただ、ソフトバンクグループのトップとしての役割だけでなく、10兆円ファンドの司令塔役ともなると、さすがに時間やエネルギーには限りがありますから、細かいことは誤差だと言って切り捨てていくしかないのかもしれません。

しかし、あまりに何もかも誤差だと言ってしまうと、本当に大切なことが見落とされてしまう可能性があるのではないでしょうか。本来、手でやるべきことを足でやってしまっているようなことがあるとすれば、それは非常に大きなリスク要因となります。

ソフトバンク・ビジョン・ファンドの投資先は多種多様で、とても孫社長1人でマネージし切れるはずがないことはよくわかります。

だから細かいことは誤差だと言いたい気持ちもよくわかりますが、孫社長の求心力で成り立っているのがソフトバンク・ビジョン・ファンドである以上、誤差と言ってしまうことで曖昧になってしまうことが増大しているのではないかと危惧せざるをえません。その懸念が顕在化したのが今回の1件だったのではないでしょうか。

ビッグビジョンとともに誤差ではなくきめ細かいマネージメントを行っていくこと。

シンプルで明快なストーリーとともに違う視点からの懸念にも真摯に対応していくこと。

今や日本を代表する経営者となった孫社長には、「誤差と言わない経営」を期待しています。

田中 道昭 立教大学ビジネススクール教授

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たなか みちあき / Michiaki Tanaka

シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略およびミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)などを経て、現在は株式会社マージングポイント代表取締役社長。主な著書に『「ミッション」は武器になる』(NHK出版新書)、『アマゾンが描く2022年の世界』(PHPビジネス新書)、『GAFA×BATH 米中メガテック企業の競争戦略』(日本経済新聞出版社)など。

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