「おひとりさま」が60歳から年金を増やす方法 老後1円でも多くもらうためにはどうするか

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もし、Aさんが特別支給の老齢厚生年金を受給するとしても、生活費には使わずに貯めたいところです。63歳から65歳まで老齢厚生年金を貯めれば約230万円となります。さらに65歳からの国民年金と厚生年金も受け取らず、70歳まで「繰り下げ」をすると、Aさんは70歳以降に余裕が出てきます。

65歳からのAさんの公的年金は年間157万円。仮に65歳まで働くとさらに6万5000円年金が増えますから年間163万5000円になります。これを65歳から受給せず70歳まで繰り下げると142%増の年金額になり、年間232万円に増えます。月にならすと20万円弱です。

「えっ、そんなことができるんですか」とAさん。どうやら繰り下げ受給を知らなかったようです。年金受給を繰り下げると月単位で年金の増額が行われ、その増額率は一生変わりません。Aさんが65歳から年金受給せず繰り下げると、月0.7%ずつ年金額が増えていきます(税金など控除されるので手取り金額の増額率は異なります)。

「70歳から年金を月20万円もらえるなら、田舎のほうに引っ越して家賃を抑えたり、節約したりすれば何とかやっていけそうです」と、Aさんは表情が明るくなりました。

「老後のチャレンジ」は50代のうちに始めよう

Aさんが70歳まで年金の繰り下げをする場合、65歳から70歳までをどう暮らしていくかが問題になります。仮に月20万円の生活費を貯蓄で賄うとすれば、5年間(60カ月)で必要な額は1200万円です。

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聞けば、Aさんは定年後、「退職金で1000万円はもらえそうです」とのこと。会社に問い合わせをして、金額をしっかり把握するようお願いしました。また貯金も500万円ほどあり、さらに若い頃から続けてきた一般財形が「ひょっとしたら500万円くらいありそう」と。「私の老後は何とかなりそうですね」と、Aさんは初めて笑顔になりました。

ここで、筆者はAさんに違う質問をしてみました。「人生100年というと、これからまだ50年近くありますよね。Aさんは今のお仕事が好きなわけじゃないっておっしゃいましたが、好きなことって何ですか?」。するとAさんは「料理が好き」と言うのです。「誰かに料理を振る舞い、喜んでもらえる仕事がいつかできたらって、ちょっと思ったりした時もあったんですよね」。

Aさんは65歳まで今の職場で頑張れば、老後の暮らしは何とかなりそうなメドが立ちました。でも、ほかにやりたいことがあるのであれば、チャレンジしてみるのも今のうちなのではないかとも思うのです。それをお伝えすると、「介護施設とか学校の給食とか、70歳になっても働ける場所ってありそうですね。どうせなら、やりたいことをやってお金がいただけるような人生にしたいですね。将来に生かせるような資格の勉強もします」と、Aさんは意欲満々になりました。

ファイナンシャルプランナーが一生懸命アドバイスして、どんなプランを立てたとしても、結局お客さま自身の気持ち次第です。お金の管理の仕方、年金の知識をほんの少しお伝えしただけですが、「これからに少し自信が出てきました」とAさん。「いつまで働いたらいいのかとため息をつくより、楽しみながら働いていける自分になりたいですね」と、帰り際の笑顔が印象的でした。

山中 伸枝 ファイナンシャルプランナー、FP相談ねっと代表

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やまなか のぶえ / Nobue Yamanaka

FP相談ねっと代表。一般社団法人公的保険アドバイザー協会理事。アメリカ・オハイオ州立大学ビジネス学部卒業。「楽しい・分かりやすい・やる気になる」ビジネスパーソンのためのライフプラン相談、講演を数多く手掛ける。大手新聞社主催のiDeCo(個人型確定拠出年金)やNISAセミナーの講師など登壇も多数。金融庁のサイトで、有識者コラムを連載。著書に『「なんとかなる」ではどうにもならない 定年後のお金の教科書』(インプレス)、『ど素人が始めるiDeCo(個人型確定拠出年金)の本』(翔泳社)、『100人以下の会社のためのiDeCo&企業型DC楽々活用法』(日本法令)ほか。公式サイト

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