中国カーシェア戦国時代、「曹操出行」の実力 ソフトバンク・トヨタと組むDiDiを猛追

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不祥事にあえぐ最大手に立ち向かおうと、「神州専車(UCAR)」や「首汽約車」などの下位プレーヤーに加え、自動車メーカーからの市場参入が相次いでいる。冒頭のCAOCAOはその急先鋒だ。自動車メーカーである吉利汽車(Geely、読み方は「ジーリー」)の戦略投資先として、Geelyが生産する電気自動車(EV)のカーシェアプラットフォームを目指す。

2015年に設立された同社は、2017年にEVのオンライン配車サービスのライセンスを取得。Geelyやアリババグループが本社を構える杭州を中心に、経済発展が比較的進んでいる約50の都市でサービスを展開している。登録ユーザーは2400万人を超え、中国国内シェアでDiDiに次ぐ2位に躍り出ている。現在はさらなるエリア拡大を画策中だ。

CAOCAOの特徴は大きく3つ。第1に、従来のガソリン車よりも環境負荷の小さいEVを使用することで、サービスのブランド価値を高めていることである。排ガスを含む大気汚染が深刻な中国の都市部では、環境に対する問題意識が高まっている。そこで、CAOCAOを利用すれば環境に貢献できることを訴求し、ユーザー数拡大につなげているのだ。

三国志の「曹操」が社名の由来

2つ目はスピードだ。約9割のシェアを誇ったDiDiがライドシェアサービスを停止したことで、配車までの所要時間が従来比で長くなり、ユーザーの間では不満が募っている。一方、CAOCAOは三国志の「説曹操、曹操到(曹操のことを話すと、曹操がやってくる)」ということわざに由来する社名のとおり、配車スピードを徹底的に重視。実際に、筆者は兵馬俑博物館の周辺のようなタクシーをつかまえづらい場所でも、ほんの数分でCAOCAOのタクシーに乗りこむことができた。

「曹操出行」はドライバーに制服を提供し、清潔感を前面に押し出す(編集部撮影)

3つ目は、従来の中国タクシーの常識を覆すユーザー体験だ。中国では北京のような大都市であっても、古く汚れたタクシーに当たることが多い。そんな中、CAOCAOは車体を白色に統一。ドライバーには制服を提供し、清潔感を前面に押し出す。ドライバーの質が疑問視されたDiDiと差別化するべく、ドライバーに対して運転歴や健康状態などに関する厳しい審査を実施。観光案内などのサービス教育も充実させている。

CAOCAOだけではない。自動車メーカー最大手の上海汽車は昨年末、配車サービスの「享道出行(Xiangdao Chuxing)」を立ち上げた。まずは地元・上海で展開し、周辺都市の蘇州などへの拡大を模索する。南部では、大手メーカーの広州汽車がSNS最大手のテンセントと提携、今年6月に広州市で配車サービスの「如祺出行(ON TIME)」を始めた。広州汽車のEVとテンセントが擁する膨大なユーザー数が、どのような化学反応を起こすか注目を集めている。

今後、自動車メーカーによるカーシェア市場への参入は続き、競争は激しさを増すと思われる。ただ、CAOCAOなどのように自社グループの車両を導入する形式は、純粋なプラットフォーマーと比べてコストがかかる。世界最大手のウーバーと同様に、収益性の確保が依然として重要な課題だ。
 

趙 瑋琳 伊藤忠総研 産業調査センター 主任研究員

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チョウ イーリン / Weilin Zhao

中国遼寧省出身。2002年に来日。2008年東京工業大学大学院社会理工学研究科修了、イノベーションの制度論、技術経済学にて博士号取得。早稲田大学商学学術院総合研究所、富士通総研を経て2019年9月より現職。情報通信、デジタルイノベーションと社会・経済への影響、プラットフォーマーとテックベンチャー企業などに関する研究を行っている。論文・執筆・講演多数。著書に『BATHの企業戦略分析―バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイの全容』(日経BP社)。

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