派遣切りが浮き彫りにした労働者使い捨ての企業論理《特集・雇用壊滅》
もちろん派遣工の生活維持に努力する派遣会社もある。製造派遣の日本マニュファクチャリングサービスは、派遣工のほとんどが期間の定めのない雇用。そのため「派遣先に切られても、たとえば自社工場で抱え雇用を維持したりもする。次の仕事が決まるまで寮を追い出すようなことはしない」(小野文明社長)という。
また労働組合との交渉の結果だが、日産ディーゼルから中途解除を受けた製造派遣大手の日研総業は、12月に行った解雇と退寮通告を撤回し、契約の3月末まで賃金の9割を支払うことを決めた。マツダから中途解除を受けた大手の日総工産も、一度行った解雇の撤回のほか、次の仕事が決まるまで平均賃金の8割を保障することを約束した。
だが、製造業派遣各社は一連の「派遣切り」で売上高の3割から4割を失っているとされる。業界の存続すら予断を許さない状況で、自助努力にも限界がある。
派遣社員に対する派遣先の雇用意識の欠如もはなはだしい。千葉県にあるネット小売り大手の倉庫ではピッキング作業を日雇い派遣労働者が担っているが、「5~6アイテムのピッキングを5~6分で行うように命じられ、広い倉庫内をつねに走っている。トイレ時間は3分と決まっていて、5分過ぎると怒鳴られる」(経験者)。
同じく千葉県にある大手アパレルの倉庫では、「必要以上の人員を集めておいて、社員がピッキング時間をストップウォッチでチェックしている。2回の休憩ごとに成績の悪い数人を振り落とす。規定の賃金は支払われない」(同)ような有様だ。
こうした雇用現場のメルトダウンに対して、派遣先はどうとらえているのだろうか。日本経団連雇用委員会の鈴木正一郎委員長(王子製紙会長)は「資本主義経済である以上、景気変動は避けられず雇用調整はある。派遣については契約期間満了で雇い止めすることが法律上認められており、それに沿って企業側は経営している。国際競争の中、企業にモラルを求められても困る。必要なら法律を改正するなりルールをきちんと定めるべきだ」と語る。雇用のセーフティネットを企業のモラルに頼られてはたまらない、というわけだ。
派遣労働者の保護をめぐるルールについては、かねてよりさまざまな議論があるが、まだこれという万能薬は見当たらない。
具体策としては、派遣会社だけでなく派遣先の責任を強化する「共同雇用責任」の概念を取り入れ、派遣先の団体交渉応諾の義務化や、派遣元が違法行為を行った場合における派遣先への損害賠償請求が考えられる。業界団体が主張しているのは、中途解除に対する派遣先の損害賠償義務化や、派遣業に対する新規参入の規制強化だ。雇い止めについては、期間社員に認められる解雇権濫用法理の類推適用を派遣社員にも認めるべき、と主張する法曹関係者も少なくない。
間接雇用ゆえに労働者の権利主張が妨げられるなら、登録型派遣制度を職業紹介と給与処理代行業務を組み合わせた制度に置き換え、直接雇用化を図ることや、偽装請負など違法時には派遣先の直接雇用と見なす規定を導入することも考えられる。
派遣先企業が、その程度の「使い勝手の悪さ」すら拒絶するのだとしたら、労働者派遣は制度そのものの根本的な見直しを迫られることになるだろう。
(週刊東洋経済)
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