派遣切りが浮き彫りにした労働者使い捨ての企業論理《特集・雇用壊滅》

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相次ぐ「非正規ゼロ」宣言 「年が越せぬ」と猛反発

昨年末から急速に広がった非正規切り。その号砲を鳴らしたのはトヨタ自動車だ。皮切りは昨年夏、トヨタ自動車九州が800人の派遣労働者の契約を解除したことにさかのぼる。11月にはトヨタ自動車本体が業績見通しの大幅な下方修正を行うと同時に、2008年初には9000人いた期間工を09年3月までに3000人程度まで減らす方針を公表。翌月には戦後初となる営業赤字転落の見通しへと再度下方修正。1月に入ると残る期間工も今夏までにゼロにする見通しだと報じられた。

「最初におかしいなと思ったのは昨年の9月。これまでだったら10月から半年の今年3月までの契約のはずなのに、なぜか契約期間を短くしてくれと言われた」。トヨタ自動車で足掛け6年ほど期間工として働いてきた平良真一さん(仮名)は振り返る。沖縄出身の平良さんはすでに一度、2年11カ月の満期を勤め上げており、再度沖縄で面接を受け4月から働き始めた。

明確に異変を感じたのは12月。「残業が一切なくなり、明らかに人手が余るようになった。知らぬ間に退寮者も増え、気付いたら表札が外されていたこともたびたびだった」。上司からは12月の段階で「今回は延長はないので身の振り方を考えておいてくれと言われた」という。

1月に入ると、12月にはガラガラだった寮の部屋はほとんどが埋まるようになった。「トヨタ自動車九州の正社員が応援として数百人規模で入ってきた。これまで駐車場に止まる車のナンバーは全国バラバラだったけど、今は九州ばかり」(平良さん)。

結局、平良さんも2月半ばでの雇い止めが決まった。「沖縄にも仕事はないし、免許を取って愛知で住み込みでできるタクシーの運転手になろうと思う」と平良さんは声を落とす。あるトヨタの正社員は「期間工は能力の有無にかかわらず、契約期間が来た順に全員雇い止めにしている。本当に誰も残さないつもりのようだ」と内情を語る。

トヨタの大胆な非正規切りに、真っ先に反応したのが同業者たちだ。「あのトヨタがやっているのだから」とばかりに、自動車業界では横並びで非正規切りが始まった。

昨年11月19日、いすゞ自動車は国内の工場で働く派遣工820人、期間工580人の計1400人全員との契約を12月26日で打ち切る方針を明らかにした。半数強は中途解除に当たる。つまりは派遣も期間工も、期間満了でも中途でも一切合切、正月を目前に打ち切るというわけだ。これには労働者側は「年が越せぬ」と猛反発。栃木、藤沢両工場で複数の組合が立ち上がり、争う姿勢を示した。

「上司から正社員登用試験を受けたらどうかと推薦されていた。それから1カ月後に解雇予告が行われた。あまりに理不尽な話だ」。いすゞの藤沢工場で期間工として働く三浦慶範さん(27)は怒りをあらわにする。三浦さんは06年から当初は派遣で働き始め、その後期間工となった。ゆくゆくは正社員にという気持ちは強かっただけになおさらだ。

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