JR東日本、「大規模プロジェクト」に潜む危機感 駅の新設や改良工事、首都圏で次々と着手

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将来に影を落とすのが人口減少の問題だ。鉄道利用者が多い東京圏でも2025年以降は減少基調が続き、働き方の変化なども追い打ちをかけて鉄道による移動需要が縮小していく、と同社は予測する。

深澤祐二社長は経営ビジョンの説明会で「従来どおりのやり方ではなかなか成長ビジョンを描いていけない」と「変革」の2文字に込めた決意を述べた。

今後は、電子マネー「Suica」など、鉄道以外の事業を一段と強化する。2017年度時点で7対3だった運輸と非運輸の売上比率を10年後には6対4となるよう収益構造を変えていく方針だ。

“本業”も攻めの姿勢

同時に本業の鉄道でも「質的改革」を進める。伊豆方面へは「プレミアムグリーン車」を設けた新型観光特急「サフィール踊り子」を2020年春に運転開始する予定。定員164人の8両編成2本を新造し、東京・新宿―伊豆急下田間で運行する。​

横須賀・総武快速線へは山手線と同じ新型車両「E235系」を2020年度から投入する。

山手線の新型車両「E235系」。横須賀・総武快速線にも投入する(記者撮影)

中央線快速では5月下旬にトイレを備えた車両が営業運転を開始する。ただ車両基地の改修工事が必要なため、 使用できるようになるのは2019年度末以降となるという。さらに各駅のホームの延長工事に巨額の投資をしたうえで、2023年度末にグリーン車のサービス開始を目指す。

渋谷駅では埼京線ホームを北へ約350m移動させて山手線ホームと並べる工事が進む。ある大手私鉄の首脳は「JRは埼玉方面から渋谷へ、これまで以上に人を呼び込もうとしているのではないか」と推し量る。

さらに、都心部と羽田空港を結ぶ新路線「羽田空港アクセス線」構想も動き出した。

駅改良工事などの目的が乗客の利便性向上であることは間違いないが、将来の厳しい経営環境を見据えた収益力の強化という側面も見逃せない。自社路線の付加価値を高めて利用者を囲い込みたいJR東日本のしたたかな戦略が着々と進んでいる。

橋村 季真 東洋経済 記者

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はしむら きしん / Kishin Hashimura

三重県生まれ。大阪大学文学部卒。経済紙のデジタル部門の記者として、霞が関や永田町から政治・経済ニュースを速報。2018年8月から現職。現地取材にこだわり、全国の交通事業者の取り組みを紹介することに力を入れている。

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