爆売れ「ポケトーク」生んだ英語オタク社長の夢 シリコンバレーに移住し、世界企業を目指す

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――グローバルな展開を目指すのは、松田社長が2012年からシリコンバレーに住んでいる影響もあるのでしょうか。

その影響は大きいだろう。移住をした理由はいたって自然で、ご存じのように、成功しているIT企業はほとんど、シリコンバレーの車で走って1時間圏内のエリアに密集している。その集積度を見たときに、行かない理由はないと思った。石油産業をやる人が中東に行くようなものだ。

結果、あらゆる面で得るものがあった。1つは、よいコンテンツをどんどん日本に持ち帰れるようになったこと。それまでも、たびたびシリコンバレーへ出張していたが、2週間、1カ月と、長く滞在すればするほどディールが決まることがわかり、家族で移住することを決断した。

アメリカではファミリーパーティーが多く、1人だとむしろ怪しまれる。こうした家族ぐるみでの付き合いを通じて、さまざまな創業者と親交を持った。たとえば、当社でソフトの国内ライセンスを持っている「ドロップボックス」や「エバーノート」も、ホームパーティーでCEOと親しくなり、ビジネスにつながった製品だ。移住してからの会社の業績は、右肩上がりで伸びている。

ストックオプションは全社員に配布

――そこまで目に見えて成果が上がるものなのですね。経営者としての意識にも変化はありましたか?

シリコンバレーで生活していると、身近な人がどんどん成功していくのを見ることができる。創業から数年でユニコーン企業になることも珍しくない。自分が成功しなくても、成功する人たちの姿をどんどん見ることで、それが普通だと思えてくる。これが重要。現在、従業員約3000人を抱えるドロップボックスも、僕が移住した当時はまだ社員20数名の小さな会社だった。

松田憲幸(まつだ・のりゆき)/1965年兵庫県生まれ。大阪府立大学工学部数理工学科を卒業後、日本IBMに入社。1996年8月、ソースネクスト株式会社を創業し、2008年に東証一部上場。更新料0円のウイルス対策ソフト「ウイルスセキュリティZERO」をはじめ、累計5000万本以上のソフトウェアを販売。2017年12月には通訳機「POCKETALK(ポケトーク)」を発売し、IoT事業にも参入。(撮影:ヒダキトモコ)

彼らから学んで自社に取り入れたこともある。たとえば、ストックオプションを全社員に配ることに決めたのもその1つ。ストックオプションを配っている企業は増えているが、全員に配っている上場企業は、今のところはないんじゃないかな。

そして最後が、自らグローバルな製品を作ること。今回のポケトークはまさにそれに当たる。

――ポケトークの「次」は何でしょう。

ソフトからIoTに広げて、これからは翻訳機以外に、IoT機器をもっと出せると思う。今年のなるべく早いうちに、第2、第3、第4の製品を出していきたい。

印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者、東洋経済オンライン編集部、電機、ゲーム業界担当記者などを経て、現在は『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインの編集を担当。過去に手がけた特集に「会社とジェンダー」「ソニー 掛け算の経営」「EV産業革命」などがある。保育・介護業界の担当記者。大学時代に日本古代史を研究していたことから歴史は大好物。1児の親。

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